レクイエム
覇王大系 リューナイト - 騎士たちの鎮魂歌 -

・・・ーン・・・リーンゴーン・・・
パフリシアの城下町には今朝からずっと鐘の音が鳴り響いている。
そう、城では今日、街の人間誰もが待ちに待った、パフリシア王女パッフィー・パフリシアと
アースティアを救った勇者アデュー・ウォルサムの結婚式が執り行われているのだ。
人々は杯や鳴り物を手に手に、城下町のそこかしこで祝いの宴を繰り広げている。

結婚式が終わると、明日はアデュー・ウォルサムの戴冠式だ。
いや、夫婦の契りを結んだ今となってはアデューはアデュー・パフリシアだ。
このパフリシアの国王となり、パッフィー女王と共にこの国を治める統治者となるのだ。
その責務は重い。戴冠式の後には、国民にも開かれた城での宴が用意されている。
国民はそのときになってようやく、新国王陛下を目の当たりにすることができるのだ。
この開かれた宴は、国民に慕われているパフリシア王室ならではの恒例行事となっていた。
さらに、国王となるアデューのざっくばらんな性格をも如実に物語っていた。

結婚式が終わった直後、パッフィーは、

 「ちょっと・・・」

と言って、共の者もつけずに、ドレスの裾をはためかせ、どこかに走って行り去ってしまった。
この後の結婚披露宴のため、アデューは先に着替えて自室でくつろいでいたが、半刻たってもパッフィーは戻らない。
なにかあったのではないか。
そんな不安がアデューの脳裏をよぎり、侍女の制止も聞かずアデューは部屋を飛び出した。
行き先には多少、思い当たる節があった。
アデューは真っ直ぐに城の裏手に向かい、垣根を飛び越え、そこへと向かった。

かくして、パッフィーは居た。
ウエディングドレス姿のまま、ひざまづいて『それ』を見つめていた。

 「・・・パッフィー」

そっとアデューは近づいて声をかけた。

 「せっかくのウエディングドレスが汚れちゃうぞ」

と、おどけながら、振り向いたパッフィーの手を取った。

 「アデュー・・・」

困ったような微笑みを浮かべて、パッフィーはそっと立ち上がった。

 「・・・ウィンディか」

 「ええ・・・」

そう、ここはパフリシア王侯貴族の墓が立ち並ぶ墓地だった。
そしてパッフィーが居たのは、パッフィーのかつての許婚、ウィンディの墓の前だった。
パフリシア城の中庭から摘んできたのであろう可憐な花々が、墓前には供えられていた。

 「ウィンディにね、報告していたの。アデューと結婚しましたって。アデューが・・・大好きなのって」

にこっと微笑んで墓石に向き直る。

 「幸せに、なります、って・・・・・・・・・」

微かに揺れる、そんなパッフィーの細い肩を後ろから見つめ、意を決したようにアデューは目をつぶり、口を開いた。

 「・・・・・・騎士道大原則・・・ひとぉーつ!」

びしぃっと右の人差し指を天に向かって突き立て、懐かしい決め台詞を口にした。

 「騎士たる者、愛する女性(ひと)を生涯かけて守り抜くべし!」

びっくりして、きょとんとするパッフィーを横目に、アデューはウィンディの墓石に向かって力強く語りかけた。



 「だから、安心しろウィンディ。パッフィーは、俺が生涯守り抜いてみせる! 何があっても、必ずな」

ウィンディ(ライバル)に向かってそう宣言すると、パッフィーに向き、

 「な」

と、はにかみながら腕を伸ばす。
パッフィーの表情(かお)が崩れ、泣き笑いの嬉しそうな表情でアデューの腕の中へと飛び込んできた。

 「はい!」

細い肢体をしっかりと抱き締め、二人は自然と口付けを交わした。

 「ん・・・」

 「・・・・・・だから」

ゆっくりと口を離し、アデューは呟いた。

 「だから、ウィンディは天(そら)から見守っててくれよ・・・」

アデューとパッフィーは穏やかな、真摯な表情で墓石に向き合った。
爽やかな六月の風が、サアァッと墓地の中を吹き抜ける。
その風を身体で感じながら、ふ、と口元を緩め、アデューはパッフィーに向き直った。

 「心強いだろ。二人の騎士が、パッフィーのこと見守ってるんだぜ!」

ちゃめっけたっぷりでパッフィーにウインクすると、パッフィーは満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。

 「えぇ! 私は幸せ者ですわね」

 「--- パッフィー様、アデュー様!」

ウィンディに別れを告げ、二人仲良く城へ戻ろうかというときに、遠くの方から二人を探す侍女たちの声が聞こえてきた。

 「あ、いっけね、忘れてた! パッフィー、披露宴がもうすぐ始まっちゃうぜ。早く支度しないと!」

 「そうでしたわ! 早く着替えなければ・・・!」

慌ててパッフィーの手を取り走り出すアデュー。

 「転ばないようにな!」

ウエディングドレスの裾をたくし上げ、必死で駆け出すパッフィー。

 「ふふ。けれどアデューも、汚れを落とした方が良さそうですわね」

二人、駆けながらも楽しそうに微笑むパッフィー。

 「え? なんで?」

 「だって、ほら。コレ」

と、アデューの服についた葉っぱを摘み上げるパッフィー。

 「げげ! うわー、垣根飛び越えたときに付いたんだな。じいさんに怒られる〜!」

頭を抱えながら、必死で服をはたきながら走るアデューを見て、これからの生活が思いやられながらも、
微笑まずにはいられないパッフィーだった。



おしまい
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覇王大系 リューナイト - 騎士たちの鎮魂歌 - 〜 Side Story 〜

 「パフはウィンディお兄様のお嫁さんになるのー」 にこにこと、小さなお姫様が僕に向かって言った。 可愛らしい、愛らしい笑顔。小さな頃から見守ってきた、大切な妹だ。  「うん。パフが大きくなったら、結婚しようね」 僕はその小さな頭をいい子いい子した。  「わぁーい! ウィンディお兄様、大好き〜!」  「よしよし」 瞳を輝かせ、ぴょんと飛びついてきたパッフィーを、僕はいつものようにぎゅっと抱き締めた。 この子が自分に対して抱いている感情が、「like」と「love」の違いをわかって言っているのか。 たぶん前者だとは思うが、自分は後者であることはしっかりとわかっている。 初めて出逢ったときに気付いたんだ。  「like」と「love」の違いを。 そして、自分がその少女に抱いた「love」の感情を。 父上から、パッフィーとの縁談を聞かされたときは、正直びっくりした。 大声で叫びたいくらいの強烈な感情に襲われ、嬉しくて、枕を抱きしめてベッドに潜り込んだ。 パッフィーはこれからどんどん美しく成長していくだろう。 可憐な少女から、美しい女性へと。 その成長を見守り、パッフィーを守る騎士となるんだ。 パッフィーを生涯をかけて守り抜くんだ。 ずっと・・・永遠に。
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