「くそっ、打ち合わせが長引いた!」 あたしはアクセルを思いっきり踏んで道を急いだ。 その頃、さざなみ寮では… 「お世話になりました。」 寮の前に1人の寮生を除いた全員が立っていた。 その中の2人だけが他のみんなと向かいあっている。 その2人は風芽丘に通っている間、ココで暮らした寮生たち。 彼女たちは次の新たな生活に向けて、今日、さざなみ寮から旅立つ。旅 路 〜新しい季節に〜 「2人とも、また新しい場所で新しい生活を始める事になるけど、頑張ってね」 オーナーの愛は2人に励ましの言葉をかけた。 「愛さ…ん……グスッ」 2人の目から涙がこぼれた。 ここでの楽しかった生活がこみ上げてきたのだろう。 そして、愛もつられて泣き出した。 「本当に別れに弱いな、愛は…」 そこにあたしが加わった。 あたしの名前は仁村真雪、現役マンガ家にしてこの寮の住人だ。 「あ、真雪さん…お帰り…な……さぃ」 「なんとか間に合ったか」 いつもはこの見送りの時は、あたしもちゃんと寮にいて送り出すのだが、 「どうしても今日じゃないと……」 と編集にせがまれ、急遽打ち合わせが入ってしまったのだ。 ……まぁ、そんなことはどうでもいい、見送りに間に合ったんだから。 「お前たちがとの生活は本当に楽しかったよ。 新しい生活、新しい環境、何かと大変だと思うけど、お前らならやれるって信じてるからさ、頑張れよ」 あたしは、2人に声をかけた。 愛はもう泣いていて、ろくに喋れない状態になってしまっている。 コレでココの管理人だというのだから困ったものだ。 寮からの卒業生が出るたびに泣いてちゃ、脱水症状になっちまう。 「…はぃ」 だめだ、この2人も泣いててまともに話が出来ねぇ… 仕方がないので、3人が落ち着くまで待つか… (5分後) どうにか3人とも落ち着いたようだな。 「それじゃあ、私たちはそろそろ……」 「うん…」 2人が時間を見て、旅立とうとしている。 「みなさん、お世話になりました。」 「ココでの生活は本当に楽しかったです。さょ…」 「…待て」 あたしはとっさに口を挟んだ。 「『さようなら』は言うんじゃない。ココはお前たちが住んでいた家だ。 だから、いつ帰ってきてもいい。 もしお前達が住んでた部屋に新しい寮生が入って来たりしていても関係ない。 あたしが言いたい事、わかるな?」 愛が続いた 「『さよなら』は嫌いです。なんだか永遠のお別れみたいな感じがして…」 2人は頷いた。 そう、今は永遠の別れ『さようなら』の時ではないのだから。 だから 「それじゃあ『行ってきます!』」 と元気良く挨拶をして、2人は歩き始めた。 駅に向かって、そして、新たな自分の人生へと向かって。 だから、あたし達もしっかりと送り出してやる。 「「「行ってらっしゃい!」」」 と。 Fin