少し肌寒い風が吹き抜ける…
季節はもう秋から冬へと変わろうとしている。
「うーん…ちょっと今日は肌寒いわねえ…」
そんな街中を、一人歩く女性。彼女は何気なく上着を着なおす。
「さーてと…もう用事は済んだし…でも、帰るには早いしなあ…」
昼過ぎの時間帯を、彼女は持て余していた。と、
「あ♪そうだ〜♪」
そんな彼女、アイリーン・ノアはある考えを浮べると長い青い髪を揺らしながら、いそいそと歩を進める
向かう先は…
とらいあんぐるハート ガールズストーリー
ある日ある窓辺で…
カランカラン〜…
「いらっしゃいませ〜♪…あ!アイリーン♪」
見慣れたエプロンを付けた、見慣れた親友が出迎える。
お菓子の甘い匂いが漂う店内…翠屋である。
「ハイ♪フィアッセ〜♪大丈夫かな?」
フィアッセは、クルリと客席を見渡す…。
「うん。どこでも良いよ〜」
「ありがと♪」
アイリーンは、フィアッセに微笑むと、奥の窓辺のテーブルに着く。ここからは、店内がほぼ見渡せた。
昼のラッシュが過ぎたのか、お客はほとんど居ない。そのせいか、どうやら店長の高町桃子は買出しにでも行ったのか、姿が見えない…。
「どうしたの?今日は新曲の打ち合わせじゃなかったの?」
と、フィアッセが熱いお絞りを持ってきてくれる。
「うん〜…まあそうだったんだけど、ホントに軽く試作のメロディと歌詞の打ち合わせしただけだから」
「次の新曲ってゆうひが作詞作曲でしょ?良いな〜♪私の曲も作ってくれないかな〜」
フィアッセは、羨ましそうにため息をつく。
「うーん…」
アイリーンは、さっきあったばかりのゆうひを思う。
・
・
・
「あかん!あかん〜〜(泣)なんかうまくいかんわ〜〜…」
「あ、あの〜そろそろ最終稿上げないとホントにやばいんですが…」
「うぅ〜だめや!もうひとつ何かいるんや!!それまで最終稿は上がらんわ〜ごめんなアイリーン」
「えぇ〜(滝汗)勘弁してください椎名さん〜」
・
・
・
「う〜〜〜ん(汗)」
いくつかのメロディと歌詞を前にのた打ち回る、世界的なシンガーソングライター兼歌手の友人と、それに振り回される哀れなレコード会社の担当者が浮かぶ。
「きっと、凄く良い歌なんだろうな〜♪」
フィアッセは、今までのゆうひの歌を思い出してウットリとしている。
「その良い歌にたどり着くまでの間に、いろんな人が冷や汗をたらしてる気もするけどね…」
アイリーンはあきれたように呟く。
「あっと!ごめんごめん〜何にする?アイリーン」
フィアッセは本来の目的を思い出して、あわてて伝票を取り出す。
「う〜んと…どうしようかな〜。あ!今日のお勧めのホットココアとクッキーのセット♪あと特製シュークリームも♪」
「うん。ちょっと待っててね〜」
注文をそそくさと伝票に書き込むと、フィアッセはカウンターへと消えていく。
「さーて、今日は来るかな…」
アイリーンは、テーブルにひじを付くと窓の外を眺める。と、その視界に数台のバイクが走ってくるのが見える…。
「あ〜〜良いな〜…気持ち良いんだろうなあ〜」
窓越しから響く、いくつかのエキゾーストノートに耳を傾け、ぼんやりとアイリーンは風を切って走る感覚を想像する。何者にもとらわれることなく、青空の下を走る…。草木の匂いや潮風をじかに感じることができる…。
「う〜ん…良いかも♪」
と、そんなことを思っていると、バイクの集団(といっても4台ほど)が翠屋の前に止まる。お客さんか〜っと考えていると、ふっとアイリーンの見知った顔が現れる。
「あれ!?」
1台のバイクの後ろに乗っていた小柄な人がヘルメットを外すと、さらりと綺麗な銀髪が流れ落ちる。それは紛れもなく…
「フィリスじゃない!!」
翠屋の前に降り立ったフィリスは、乗っていたバイクのライダーに何度か頭を下げ、ヘルメットを手渡す。それに、軽く手を上げて答えたライダーたちは再び走り出してゆく。
それを見送ったフィリスは翠屋のドアに手を伸ばす。
カランカラン〜…・
店内にフィリスが入ってくると、例によってフィアッセがパタパタと出迎える。
「いらっしゃ〜い♪フィリス〜」
「こんにちは〜フィアッセ」
どうやら、フィアッセはカウンターの中にいたせいで、外の出来事には気が付いていない様子だった。
「すいてるから、どこでも良いよ。どこが良い?」
「そう?でも1人だしカウンターに…」
ガッシ!!
「「へ!?」」
突然、フィリスの肩を掴む腕が現れる。とその先を辿ると…
「ハ・ア・イ♪フィリス♪」
「ハイ(汗)…アイリーンさん…」
満面の笑みとその裏の怪しげな考えを隠そうともしないアイリーンの顔があった…
「では、説明してもらいましょうか♪」
「な、何を…?」
結局フィリスは、アイリーンと窓辺の席で向かい合っていた。そして、テーブルには暖かいココアとクッキーが並んでいる。
「あ♪このクッキー甘さ控えめで、ココアとよく合う♪」
「え?どれどれ…あ!ホント♪…ってそうじゃなくて!!」
一瞬、流されそうになりつつ、アイリーンはフィリスに詰め寄る。
「あのバイクに乗ってる人のことよ!!」
「…ただの友達ですよ〜」
「ホントに〜??」
ジト目で、フィリスの目を見つめる。フィリスは誤魔化すようにクッキーを口に運ぶ。
どことなくフィリスが焦っているようにも見えなくもない。
「疑わしいものね」
「うぅぅ〜〜…」
そんなこんなしていると、また窓越しに見知った顔が見える。
「あ!!」
それは、どことなく無愛想な感じの男…
「「恭也♪」君♪」
同時に上がった声に、ふと目の前を見る。
「フィリス…」
「アイリーン…」
ちょっとお互いに引きつった笑みを浮かべたりする…
カランカラン〜
「いらっしゃいませ〜♪あ、恭也〜赤星君いらっしゃい〜」
「どうも、フィアッセさん今日はちょっと大人数ですみません」
赤星と恭也の後ろには、風牙丘の制服の男女が数名付いてきていた。
「今日はちょっとOBとして練習を見に行ったんです」
「で、俺は赤星にムリヤリかりだされたというわけだ…」
少し、むすっとしたような恭也の顔…
「まあまあ、だからこうして売り上げに貢献に来たじゃないか」
「むう」
「「「ご馳走様です〜赤星先輩♪」」」
「ぐあ!」
後ろから飛んできた言葉に、赤星はうなだれると恭也に助けを求める視線を送る。
「高町…」
「ご馳走になる」
「…」
ぞろぞろと、メンバーは店内に入るとおしゃべりを開始する。
それを、奥の席でそんな彼らを見つめる2対の目…もちろん、アイリーン&フィリスである。
「…ねえ?」
「…なんです?」
「なんで、隠れるの?」
「アイリーンさんこそ…」
何故か、テーブルに突っ伏すようにしている姿は、どうにも怪しい…
「あの?高町先輩?」
「うん?」
小柄な一人の風牙丘の制服を着た女の子が声をかける
「あ、あの…高町先輩すごく強いんですね!!」
「…そんなことはない。赤星のほうが剣道は強い」
「いえ!!私はすごく尊敬してるんです!!高町先輩の事!!」
と、彼女は顔をほんのりと赤くしながら声を荒げる。
「…そんな、大したことじゃないさ」
「お?高町が珍しくテレてるぞ〜」
「おいおい、赤星」
ドッと、翠屋の一角から明るい笑い声が響く。
だが、その一方で、少々危険な空気が流れていたりするのに、気がついている者は少ない。
「恭也…なんなのよ!」
「恭也君…」
少し憧れを含んだような女性部員の質問に答える恭也。その様子が妙に気になる2人…。
「…もう!」
「あ!!アイリーンさん!私の分のシュークリームとらないでよ!!」
なにやら、争うように目の前に置かれた特製シュークリームを口に運ぶ2人。
この一角が危険な空気の出所である…
(…もう!恭也ったら、鼻の下伸ばしちゃって!!)
アイリーンは少し離れた席で談笑を続けている恭也をジト目で見ながら、ふと考えた…
「…ねえ?フィリス…」
「なんです?」
フィリスは口元にシュークリームについていたパウダーシュガーを口につけたまま、ココアを口に運ぶ…
「なんで恭也のこと好きになったの?」
グブゥ!
「わ!フィリス汚いよ〜!!」
変な音を立てて、フィリスはココアをカップに噴出す。
「あ、アイリーンさんが変な事言うからですよ!!」
「シッ!恭也に聞こえちゃうでしょ?」
2人はまた隠れるように声を潜める…
「わ、私は…別に…」
少し頬を染めながらフィリスはゴニョゴニョと口を濁す…
「そう?私にはどう見てもそういう風に見てるようにしか見えないんだけど…」
「…アイリーンさんストレートですよね…」
フィリスは、ココアで汚れた顔をお絞りでぬぐいながら呆れと感心を含んだ目を向ける。
「そうかな…まあそれはともかく…」
「?」
アイリーンは、ぼんやりと外の風景を見つめる…
「ねえ?フィリスって恭也と初めて会ってどのくらい?」
「え!?…そうですね…まだ1年ぐらいかしら…」
突然のアイリーンの疑問に驚く。
「そうね…そのくらいよね…」
「どういうことです?」
アイリーンは視線をフィリスに移す。
「私は恭也と初めてあったのは結構前だけど…そんなに会ってたわけじゃなのよね…」
「?」
フィリスは何をアイリーンが言っているのかわからない様子で首をかしげる…。
「なんで恭也なのかな〜ってね」
「はあ?」
フィリスはますますわからなくなって首を傾げるばかりである。
そんなフィリスをおいて、アイリーンは考え込む…
(なんでだろ?)
アイリーンは以前のチャリティーコンサートの出来事を思い出す。別にそこが始まりだったわけじゃない。
(う〜ん…それまでだって、恭也が強いのは知ってたしなあ…)
そんなことをしている内に、風牙丘の生徒たちが店を出て行くのが見える。
赤星はなにやら財布を片手に暗くなっているが…
「ふう…やっと隠れなくてすむわ」
「…そもそも別に隠れる必要はなかったように思いますが…」
「フィリスだって隠れてたじゃない」
「そ、それは!アイリーンさんが隠れるからつい…」
フィリスの抗議を受け流しつつ、アイリーンは残ったココアを喉に流し込む。
「あ〜あ…なんか今日は、途中でわけの分からないことになっちゃたなあ〜」
「ハア…私のほうがわけ分からないですよ…」
疲れたようなフィリスに、追い討ちを掛けるようにアイリーンがそっと耳打ちする。
「あのライダーの彼についてはまた今度改めて聞くからね♪」
「!!!!!」
忘れていたのか、フィリスは頬を引きつらせてアイリーンに顔を近づけて言う。
「た、頼みますから変なところに噂広めないでくださいよ!!」
「…さざなみ寮の人たちとか?」
フィリスはネジを巻きすぎたゼンマイの玩具のように、コクコクと首を縦に振る。
「うーん…じゃあ恭也には言っていいのね♪」
と、アイリーンは意地悪そうな笑みを浮かべ、すっくと席を立ち上がる。
「ああ!!ちょっと待って!!」
ガシ!
「え!?」
あわてて、アイリーンの腕を掴もうとしたフィリス。無理な体勢だった事もあり、2人そろってバランスを崩す!
(あ!!やばっ!!)
アイリーンとフィリスの視界に翠屋の床が迫ってくる!
バフン!
と、2人の視界が黒くて暖かいものに塞がれる。
「「あれ!?」」
「店の中で暴れたら危ないでしょう?」
と、2人の頭の上から聞きなれた無愛想な声が聞こえる。
「「き、恭也!!」君!!」
顔を上げた2人の目の前に、先ほど風牙丘の面々と店を出たものだと思っていた恭也の顔があった。
「あ!ご、ごめんなさいね恭也君!!」
フィリスはあわてて、立ち直ると恭也から離れる。しかし、その顔はほんのりと火照っていた。と、恭也に抱えられながら、アイリーンはぼんやりと考え事をしていた。
(あ、そっか…こんな恭也だからあの剣道部の彼女みたいにみんな惹かれるのよね…ホント、時間とか距離とか関係ない人よね…)
アイリーンは自分の疑問に自分なりの答えを見つけて満足すると、恭也の背中に腕を回す。
「あ、アイリーンさん?どうしたんです??(汗)」
恭也が慌てた様に、身を硬くする。
「フフフ♪ありがと、恭也♪」
アイリーンはギュッと、腕に力を込め恭也にすがりつく。
「ああぁぁぁ〜!!」
フィリスの悲鳴のような声が聞こえたが、アイリーンは恭也にそっと耳打ちする。
「今日はね…恭也に会えるかもって思ってここに来たんだよ…」
「は!?」
その言葉の意味が分からないというように、恭也が間抜けな声をあげる。
「なーんてね♪」
と、アイリーンはスルリと恭也を解放する。
翠屋の全員の視線を集めながら、アイリーンは恭也に微笑んで心の中でそっとつぶやく。
理由なんてないよね…だってカッコ良いんだもの♪
少し肌寒い風が吹く季節だが、彼女の心の中は気持ちのよい温かな風が吹き抜けていく。
理由などない。
そんな簡単なことを確認した、ある日ある窓辺での出来事だった。
少し呆れたような風が吹き抜けていった…。
ある日ある窓辺で…(完)
作者的アジト
γ:「ふう終わった」
?:「マスター…レポートは終わってませんが…」
γ:「…すまん」
?:「私に謝られても困るんですが…」
γ:「ところで、お前さん自己紹介したらどうだ?でないと『誰や!?』という話になる」
?:「あ!そうですね。私はここの作者Vガンマ〜の従者で“風翔(フウカ)”と申します♪今回から後書きに借り出されるようです〜」
γ:「うむうむ…」
風:「あの…ちょっと、結構当て字ですよね、フウカって」
γ:「すまん」
風:「まあいいですけどね…」
γ:「では、ゲストの登場です!アイリーン・ノアさん〜♪」
ア:「ハアィ!やっと完成したわね〜SS」
γ:「いやはや、散々でした…なかなかノリが悪くて」
ア:「まったく、結局考えてたラストとは少し変わったみたいだし…」
風:「まあそれはしょうがないでしょう」
γ:「臨機応変で!」
ア:「言い訳ね…」
風:「まあまあ…一応、今後もアイリーンさんのSSは書いていくんでしょ?マスター」
γ:「うむ!このSSには多数次期SSの前フリを含んでいるのだ!」
ア:「ただ単に、今回バイクの登場が少なかったからじゃないの?」
γ:「ギク!」
風:「まあ私のマスターですから…あ、そうそうたぶんこれを読んだ方は、『フィリスをバイクに乗せてた野郎は誰だ!』と思ってらっしゃると思うのですが」
ア:「私も気になる!!」
γ:「次のSSをご期待ください♪」
ア:「むう…そういえば風ちゃん?貴方ってもしかして…」
風:「あ、はい。私の本体の形式番号は『VJ23A』…バイクです♪」
ア:「やっぱり…後書きが大変にならなければいいけどね〜」
γ:「もうなってるかも…」
風:「すみません…私が至らないばかりに…」
γ:「お前のせいじゃないぞ!」
ア:「ではでは、今回はこれぐらいで〜」
風:「さようなら〜」
γ:「読んでくださってありがとうございました〜」
・
・
・
風:「あの…マスター、そろそろギアオイルが劣化してきたのですが…」
γ:「すまん…一寸オイル代出せない…」
風:「あうぅぅ…早く私のすべてを貰っていただきたいです…」
γ:「…ローン払い終わるまで所有者は『ヤマ○オートセンター』だからな…」
風:「がんばってくださいね♪」
γ:「グウ…」