海・・・
人は常に、海と共に生きてきた・・・
そんな人々が、海に特別な思いを向けることは、ごく自然な成り行きであった・・・
だから、海も同様に人に特別な思いを持っているのかもしれない・・・
だが人と大きく違うのは・・・
海はどこまでも純粋だった・・・
その純粋さには何人たりとも抗う事はかなわない・・・
とらいあんぐるハート アナザーストーリー
『海鳴果つる時』(後編)
夕刻・・・海鳴ベイサイドホテル 屋上ラウンジ
ビアガーデン「サンフラワー」
夏の長い日も傾いた空の下、日差しと反比例するかのように活気付き始めるビアガーデン。
今日も休日出勤の会社員・・・休日の夜の楽しみを開始する人々・・・
・・・また、一部には周囲の人々の妙な注目を集める一団が居るが・・・様々な人々が例外なく夏の“しあわせ〜♪”を求めて集まっ
ていた。
で、当の特異の目で注目を集める一団・・・
「かあっ♪やっぱりビアガーデンでのビールは美味しいやね〜♪」
「うん♪うん♪」
ぷはあっとばかりに、ジョッキをあおる2人の女性・・・
片や、ショートの銀髪に、この夏に長袖のジャケットを着込んだ女性・・・片や、ウェーブのロングヘアーにサマードレス風の服装の
女性・・・(注目は主にサマードレスの女性に注がれている)
「なんか・・・二人ともオヤジくさくないかな??」
「・・・は。はあ(汗)」
同じテーブルで、ヒソヒソとそんな事を言う銀髪ポニーテールの女性・・・セルフィと、周囲の男性陣に少々嫌な注目を集める黒い男
の4人の一団である。
「なんやと〜?ウチらは夏の定番の楽しみを最高に楽しんでるだけやないかーい!!」
「大体、オヤジくさいを通り過ぎて、爺くさい恭也に言われたくないよ」
ビールのジョッキから手を放すことなく反論をする2人・・・リスティと、何故かこんなところに居るSEENAこと椎名ゆうひであ
る。2人に詰め寄られる黒い男・・・ちなみにもちろん(?)高町恭也である
「ていうか・・・なんや?恭也君はビール飲まへんのか??」
さっきから、テンションの高い関西弁を振りまくゆうひが、さっきからずっとウーロン茶の恭也にジト目を向ける・・・
「いや・・・ボディーガードちゅ「なんや〜(涙)恭也君はしーなおねーさんの酒はのめんちゅーことかい(涙)」・・・って聞いて
ないですね(汗)」
言い訳(この場合恭也の方が正論ではあるが、受け入れられるはず無し)を並べようとする恭也に、ヨヨヨ・・・と泣き崩れる(演技)
ゆうひ・・・
「ウチ恭也君にふかーく傷付けられたわ・・・責任とってもらわな♪」
傷つけられた割にはセリフの最後に“♪”を付けるゆうひ・・・
「あ〜〜ソレ良いね♪アタシも責任とってもらおうかな?・・・恭也♪」
リスティもビールで少し上気した顔を恭也に向ける。
「いや・・・そんなこと言われましても・・・」
誤魔化すように、恭也はテーブルに並べられたソーセージを口に運ぶ。
「大体こんな所で変なこというと、ゆうひさんは“イロイロと”誤解されたりしますよ?」
恭也はふと周りの様子を伺い、すこし真剣な“ボディーガードとしての言葉”を返す・・・が
「んふ〜♪ウチは誤解されても、恭也君ならOKやで〜♪」
あっさりそう返されてしまった・・・
「お〜!!ゆうひ微妙に爆弾発言!!?」
あおるリスティに、意外なところから言葉が飛び出す
「もう〜〜!!リスティもゆうひさんも〜〜!!高町君が困ってるじゃない〜!!」
ドンッ!!と空になったジョッキをテーブルに置いてそう声を荒げるのは・・・
「「シェリー?」」
「アルバレットさん??」
ソレまで、静かに3人のやり取りを見守っていたセルフィの言葉に、3人の視線が集まる
「う・・・いきなりコッチに注目されても私が困るんだけど・・・あ!すみませ〜ん!!生中もう一杯お願いします〜」
思った以上に集めてしまった注目を避けるように、セルフィは店員を捕まえるといくつ目かの、新しいジョッキを受け取った。
「アルバレットさん、少しペース速くないですか?(汗)」
恭也は、見た目以上にペースの速いセルフィに心配の声を掛ける。
「あ〜(汗)だ、大丈夫だよ〜!」
恭也の心配と優しさの視線を向けられ、ビールのせいなのかセルフィは頬を少し上気させて慌てて答える。
「そうですか?・・・まああまり飲み過ぎないように・・・大分回ってるみたいですから」
「そ、そう??まだ全然だよ〜」
恭也は少なくとも、上気した頬はビールのせいだと判断したようだ・・・
「と・・・ちょっと失礼するね、高町君(汗)」
「あ、はい」
セルフィは恭也の視線にちょっと逃れるように、化粧室へと早足に向かう。
その足取りが比較的しっかりしているのを見て、恭也はホッと一息ついて目の前の料理をウーロン茶と共につまむ・・・
「・・・そう言えば、アルバレットさんの服装・・・」
ふと恭也はセルフィの今の服装に、ちょっとした何かを感じた・・・
っと、そんな恭也&セルフィに、リスティ&ゆうひは・・・
「・・・先生?どうでしょう??彼女・・・」
「うん・・・多分十中八九“イッチャッテル”ね・・・“あの服”着てる時点で・・・」
「で・・・問題の彼の方なんですが・・・」
「・・・重症やね・・・でも、その分どう転ぶか予想つかんわ・・・」
「それじゃ、他の娘にも?」
「ういういチャンスありや♪なんだったら、ウチが強制的に・・・♪」
「・・・いや・・・それは・・・」
「・・・ほならリスティが・・・♪」
「・・・(汗)」
「何やってるんだ??2人とも・・・」
テーブルに突っ伏してボソボソやっているリスティ&ゆうひに、恭也は自分が酔ってない事をほんの少しだけ後悔していた・・・
同時刻 同ホテル 地下
・・・ギ・・・
・・・・ギギギ・・・
・・・クスクス・・・ギギ
地下のコンクリートからの不気味な声に気がつくものは誰も居ない・・・
再びビアガーデン
「はあ〜〜・・・なーんか、いつもと調子が狂うなあ」
セルフィは化粧室の鏡の前でジッと自分を見つめていた・・・
そこには、何処となく違和感のある自分が立っている。その理由は、その服装。
「はあ・・・スカートなんてレスキューに入って以来、一度も着てなかったからかなあ?」
セルフィはいつもの活動的な服装から一転、柔らかな印象をかもし出すベージュのブラウスにスカイブルーのスカートとジャケット。
胸元にはシンプルに輝くペンダントがアクセントになりセルフィを引き立てている。
「う〜〜〜ん・・・変じゃないかな?・・・変な娘だと思われちゃわないかなあ?」
ヒラヒラとポーズを変える時分の姿を、鏡に写す。
鏡に映った女の子は、自分の姿・・・しかし、それは何処となく違う雰囲気・・・
「うーん・・・らしくないなあ・・・」
はあ・・・
がっくりとうなだれ、戻ろうかと思った時だった!!
ズドォォォォォン!!!
「うわ!?」
突然、セルフィの足元が鳴動する!
「キャアァァァ!!」「なんだ?」「地震じゃないぞ!?」
化粧室から出ると、ビアガーデンの他の客達が騒然としていた。
「今のは明らかに地震じゃない・・・今のは・・・爆発?」
セルフィのレスキューとしての経験が一瞬で判断する。階下からの爆発。レスキューにとって、もっとも確実な退路が立たれる一番
経験したくない振動だ。
その瞬間、すぐさま体が反応する。まずは一般人の避難経路の確認と確保。コレだけの規模のホテルならば、屋上またはそれに近い階
に上層階の客の避難用の非常階段、またはエスケープシュート(避難用滑り台)があるはず。
「シェリー!!」
と、リスティがすぐさま駆け寄ってくる。一緒に恭也とゆうひも居る。流石、リスティも恭也もその手の仕事にかかわるだけに、ただ
事ではないことを察したようだった。
「シェリー!!コレって・・・」
「うん。階下からの爆発だよ!大分下のほうみたいだけど・・・」
「おい!!何があったんだ!!」「煙だ!!煙が出てるぞ!!」「逃げろ!早く!!」
自体の飲み込めない客達が勝手に騒ぎ始める。ホテルの各部から、うっすらとした煙が流れ出していた。ホテルの従業員達は、必死に何か
電話にしがみついている。全く心もとない姿に更に客の苛立と不安を助長した。
「早く!!こっちだ!!」
一部の客が、勝手に非常階段で脱出しようとする。それをみて、他の客も堰を切ったように非常階段に駆けだし、一気に大混乱が広がっ
た。
「ダメです!!一度に1つの通路から出ようとしたら、危険です!!」
とっさにセルフィが、非常階段へ向かう人々の前に立ちふさがる。
「なんだと!?」
殺気立った人々の視線が、セルフィに集まる。人々の視線は「何様のつもりだ?」という、不信そうな視線だ。
「邪魔だどけ!!」
「キャッ!」
一人の男が、セルフィを押しのけようと前に出る。それが原因で、また雪崩を打って人々に混乱が広がった!
ブゥン!
「ふぁ!?」
ドシン!
と、セルフィを力任せに押しのけようとした男の体が、宙を舞いコンクリートの床に叩き付けられる!
「高町君!?」
「大丈夫ですか?アルバレットさん」
と、恭也が手を貸そうとすると・・・
「何するの!!高町君!!一般人を投げ飛ばすなんて!!」
「あ・・・いえ、ちゃんと怪我をしないようにしましたよ・・・」
突然意外な抗議を言われ、言い訳をしようとするが、セルフィは聞かない
「そういう問題じゃないよ!!・・・大丈夫ですか?」
と、ふと嫌な視線を感じる
「・・・」「おい・・・」「ああ・・・」「さっきの爆発って・・・」
恭也の行為で、動きの止まった客達がざわざわし始める。
「あ、いや・・・えっと・・・」
人々の奇異の視線は、「爆発」「火災」「不信な人物」それに、現在の社会情勢から、人々はありえない方向へ思考をめぐらせ始める。
セルフィは、そんな危険な雰囲気にどもってしまう・・・
「あぁぁ・・・こんな事なら、たまにはバックアップもやっておくんだった・・・」
レスキューではいつも、指揮官であるクレアのフォーメーションに無理を言って、最前線のオフェンスをかってでてるセルフィ。その為
バックアップはほとんどやってない。バックアップのやるべき事は、野次馬などの整理など、比較的大人数の避難がメインの任務である
が、セルフィはほとんどが超危険地帯からの少人数の脱出がメイン。それは、全く違う誘導方法が必要となる。セルフィは自分の不甲斐
なさにギュッと手を握り締めた・・・と
「はいはいはい!!皆さーん!!彼女は、レスキュー関係の人なので、彼女の指示に従えば大丈夫ですよ〜!!」
手を大きく振りながらやってきたのは、非常事態にもかかわらずニコニコとしたゆうひだった。
「おい!あれ!!」「SEENAだ!!」「SEENAさんだ!!」「おぉぉ」
それまでの緊迫した雰囲気が突然晴れていく。
「はいはい。じゃあ、ホテルの従業員の方はこちらにきて。一般客の誘導をお願いします」
リスティは、懐から金色の警察バッジを取り出す。それをみて、従業員達もホッとしたのか冷静に避難経路の確保に動き出す。まだ何か
言いたそうだった一部も勢いを削がれた。
「ムリヤリ持たされたバッチだけど、国家権力ってこういう時は楽だろう♪」
リスティは、ポンと恭也の方を叩いた。
「なあ?シェリー、女性や子供、お年寄りを先に避難させた方がええよね?」
「え?ええ、そうです。女性や子供、お年寄りを先にお願いします」
少し呆然としていたセルフィだったが、ゆうひにそうささやかれてハッとして答える。
「うし!わかったで!」
セルフィは気がついた。ゆうひは、表面上はニコニコしているものの、目は真剣、必死だった。ただ、ゆうひは歌手で知名度も高い。
そういう事を理解し、自分に出来る事をしっかりとやっているのだ。
「ええですか〜?女性や子供、お年寄りを先にお願いしますね〜」
そう、いって声をかけて回るゆうひ。彼女の声は、あせって大声を上げてるわけではないのに、非常に遠くまで伝わった。その為、すぐに
屋上の人々に意志を伝える事が出来た。それに、彼女の落着いた何気ないそぶりは人々に冷静な思考を取り戻させた。
男達は女性や子供に手を貸し、中には避難のために列をつくり整頓を始める人々もあった。
「凄い・・・ゆうひ」
少しうっとりとするセルフィ、そしてバツの悪そうな恭也
「コラコラ!シェリー!!こっちの手伝いもしろよ!!」
リスティに小突かれ、セルフィは我に返る。
「ご、ごめん!」
「恭也!!お前はゆうひのボディーガードだろ!ちゃんとゆうひに付いてろ!!」
「は、ハイ!!」
恭也は、自分の醜態に気が付き、すぐさまゆうひの後を追う。
それを見送って、
「まあ、ココはゆうひと恭也で何とかなりそうだな」
「うん」
恭也はすぐに、ゆうひと共に客の整理を始めていた。
「あ・・・さっきは高町君にひどい事言っちゃったかな?」
セルフィはついさっきのことを思い出す
「いや、気にしてないだろ?恭也なら自分の失敗をちゃんと理解してる。逆に感謝されるさ」
リスティは、珍しくあたふたと列の整理をして回る恭也をみてそういった。
「・・・ふーん・・・妙に高町君のこと分かるんだねえ・・・」
「ま、付き合いはそれなりにあるし、恭也は今じゃ珍しいタイプの男だからね」
追求は無用とばかりに、そっけなくリスティはさらりと流す。
そんなリスティにセルフィは眉をひそめる。
と、そこに下の階との連絡を取りに行っていた従業員が駆け込んでくる。
「下の階のほうは、以外に煙は少なかったです。電力が落ちてるので、エレベーターは使えないですが、館内の階段も避難に使えます!」
セルフィは自分の経験から、今のホテルの状況を推測する。従業員からの情報、そして自分の経験と勘。爆発の音と振動からどうやら、
火元は地下の様だと判断する。そうなると、窓などからの空気が入らない分、火災の進行は比較的遅いはず。
「分かりました。では、館内の客はそちらの階段をメインに避難させましょう。全員に煙を吸わないように注意を徹底してください!」
セルフィの指示から、従業員達はそれぞれ連絡に走り出す。
「ふう・・・何とかなりそうだな」
リスティはフウッと肩をすくめると、懐からタバコを取り出す
「リスティ!!一応こういう状況だから・・・」
セルフィのキツイ視線に会えなく、タバコは懐に戻された
「・・・う・・・悪かったって」
「もう・・・」
消防車両の近づくサイレンも聞こえ、建物から出てしまえば、あとは地元の消防がやるべき事をしてくれる。もう、ほぼ一安心だ。
とその時、避難する人々の流れに逆らってくる女性が目に入る。
「ああ!ダメですよ!!ちゃんと誘導にしたがって・・・」
と、言って流れの中から女性を出して、ふと見覚えのある女性だと気が付く。
「あれ?貴方は・・・?」
セルフィには見覚えがあるはずだ。それは、昼間出会った少女、美由の姉。
「あぁ!!貴方は!!すみません!美由を見ませんでしたか?白いスカートの栗色の大きな目の女の子です!!」
美由の姉は、息を切らせかなり狼狽しながらそう叫ぶ!
「え!?一緒じゃないんですか??」
「は、はい・・・3人で食事しているときに、お手洗いにいってから姿が見えないんです!!」
美由の姉は、ここに来るまでにあちこち探し回ったのだろう、大分疲れ果てているように見えた。
リスティは近くの従業員に声をかけて、
「おい!女の子を捜すんだ!白いスカートの・・・えっと他に分かりやすい特徴は?」
「は、はい!白いスカートに、ベージュのブラウスです。あと髪の毛は肩までです。1階のレストランで食事中に居たのが最後です」
それを聞いた従業員達とリスティが避難をしている人々の列や、他の階に飛んでゆく。
「ああ・・・美由・・・」
ぐったりと床に崩れる美由の姉・・・
「ともかく、これ以上ここに居ては貴方も危険です。避難してください」
そう声をかけるが、彼女は動けなかった・・・心配と疲労で立っていられないのである・・・と、そこに一人の男が駆け寄ってきた。
それは、すぐに誰だか分かった。
「皐!!大丈夫か?美由は!?」
「ああ・・・孝治・・・まだ見付からないの・・・」
美由の姉は男の顔を見ると、泣きそうな顔で言った。美由の兄(になる)コージお兄ちゃんと呼ばれていた男だ。
「・・・まさか地下の方に行ったんじゃ・・・」
男が不安そうに呟く・・・それを聞いて、セルフィは嫌な予感を覚えた。以前にも感じたザラッとした嫌な感触・・・
これは・・・
「シェリー!!それっぽい女の子を見たって人が居たぞ!!」
と、そこにリスティが作業着姿の2人の男を連れて駆け戻ってきた!
「ホントに見たの!?どこで!?」
セルフィは不安がどんどん確信になってゆくような感覚を覚えながら問いただす。
「えっと、確実とはいえないんですが、地下3階の配管室から階上に上がるときに、エレベーターで1人だけの女の子とすれ違ったんです
よ。親はどうしたんだ?って思ったんで、ちょっと覚えてます」
「うわぁぁ・・・み、美由〜〜ぅぅぅ・・・」
それを聞いて、美由の姉、皐が一気に不安を爆発させてしまう。
「くそ!美由ちゃんを探してきます!!」
そういって、立ち上がる孝治。が、
「ダメです!危険です!」
セルフィが止める!それに、「美由ちゃんを見殺しに・・・」と言い掛けた孝治をさえぎって
「私が探しに行きます!」
とセルフィが言い返す。その気迫に孝治は一瞬押される・・・
「私はニューヨーク特殊救助隊「FDNY」レスキュー6の隊員ですから」
その言葉には、絶対の気迫があった。
「おい、シェリー!装備も何にもないんだぞ!消防が来てからなら装備を使えるじゃないか?」
リスティの指摘に、セルフィは真剣にな顔で首を横に振る。
「まだ火元は地下みたいだし、それなら早いほうがいい!火が地上に出てからじゃ、地下に入るだけでひと苦労だし」
「しかし、貴方1人では・・・せめて男が居たほうが・・・」
そういって付いて行く意志を示す孝治、
「ダメです。もうすぐ、消防が着きますからとにかく皆さんは避難してください・・・」
そう促すが孝治は納得しようとしない・・・と
「じゃあ、俺が代わりに行きます」
「「「え?」」」
振り向くと、いつの間にか恭也とゆうひが来ていた。声を上げたのは恭也だ。
「で、でも・・・」
口ごもるセルフィだったが
「大丈夫です。人並み以上に丈夫だし、体力にも自身がありますから」
それに、別の方から声が上がる
「私も行きます!ここの地下は私の職場ですから、構造には詳しいです!」
そういったのは、美由を目撃した作業員の1人だった。
「よし!もう決まりだ!!シェリー、時間がないんだろ?」
リスティはそういって手を叩き、まとめた。
「それじゃあ、他の人は避難だ!!」
リスティに促されて、孝治も皐を支えて渋々避難することになった。
リスティ「シェリー無茶するなよ」
ゆうひ「恭也くんもガンバレや!」
皐「美由をお願いします」
孝治「お願いします!」
その他にも「頑張れ!」「無事で」「気をつけて!!」
と、館内に突入しようとする。セルフィ達に声が掛かる・・・誰もが自分たちの今の無力さを感じていた・・・だからこそ、セルフィ達
を見送っている。セルフィはただ、その言葉にただ正直に答えたいと思った
(・・・絶対に助ける!!)
館内はすでにほとんど避難は完了していた。ところどころ、従業員が最後の確認に走り回っているのみだった。その彼らにも、終わり
しだい、すぐに避難するように念を押して、セルフィ達3人は地下へと向かう!
「は、ハアハア・・・こ、ここから地下です」
セルフィと恭也はかなり余裕を持っていたが、やはり本職ではない作業員の男は辛そうだった。何とか、地下へ続く扉の前に立つ。
「こ、このホテルは・・・ハアハア・・・地下への階段はすべて従業員専用なので普段は扉が閉まってます。ハアハア・・でも、今は
エレベーターが止まってるので、ココしか入り口はありません」
「分かった。じゃあ、完全に地下は密室?」
「フウ・・・いいえ、一応この階段が非常避難路なので鍵は閉まってません」
と、作業員が金属の扉に手をかける・・・が
「あれ?くっそ!開かない・・・なんで?・・・」
扉は力を込めて押しても引いても開かない!
「ちょっとどいて!」
セリフィは、作業員を押しのけると、慎重にドアに手を当てる・・・
「うん。火災の熱で開かないわけじゃないみたいね」
と、作業員が壁の異常に気付く!
「ああ!どうしたんだ!?壁がずれてる!?」
見ると、ホテルの壁に微細ながらひびが入りずれていた!コレが原因で扉が開かないのだ!!
「この他に入り口はないの?」
しかし、作業員は首を横に振るだけだ・・・と
恭也が、何処からか拾った太い鉄パイプをカンッと地面に一度打ち付け、構えを取る
「じゃあ、強行突破します。アルバレットさんどいてください!!」
「え!?」
ナニをする気かと、一瞬分からなかったがセルフィはさっと扉から飛びのく
「はぁぁぁ!!『射抜』!!」
ドン!っと強烈な踏み出しで、地面を蹴ったかと思うと、ものすごい勢いで扉を鉄パイプで突く!
ドガァァァン!!!
猛烈な勢いで金属の扉が吹き飛んだ!
「うぁ!!す、すっげえ!!防火扉が!!」
作業員の男も目を丸くする。
「高町君・・・すごい・・・」
「御神の奥義ですよ。こんなふうに使う事になるとは思いもしませんでしたけど」
ちょっとはにかんで言う恭也に、セルフィはふっと笑ってすぐに真剣な表情に戻る。
「じゃあ、行きましょう!」
電気が落ち、薄暗い地下への階段を睨む。開かれた扉からは煙が漏れ始め、その口はまるで「こっちに来るな!」とセルフィを脅して
居るようでもあった。
・・・地下一階、ゲーム&カラオケコーナー
「ここは娯楽施設になってるんです。カラオケコーナーは深夜にならないと従業員も居ませんが・・・」
「もしかしたら、ミユはこのゲームコーナーに来たのかもしれない・・・ミユー!!」
「美由ちゃーん!!」
そう大声で3人は美由の名前を叫ぶ!!しかし、反応はない・・・
地下となると、案の定かなり濃い黒煙が立ち込めていた。ただ、まだそれほど火が回ってないところを見ると、どうやらここより
更に下の階が火元のようだ。
「ゴホ・・・ゴホホ・・・居ないみたいです・・・だ、ダメですね・・・」
作業員はタオルで口をふさぎながらメチャクチャになったゲームコーナーを注意深く見て回った。
「じゃあ、俺はこっちのほうを見てきます・・・美由ちゃーん!」
恭也は、しまっているカラオケコーナーのほうへと向かう・・・
「他に・・・もし、ここに居てあの爆発を感じたのなら、逃げ道を探してどこかに移動したのかも・・・あの扉は?」
ふと、セルフィの目にゲームコーナーの奥に扉が見えた。それは、普通は見逃しそうなモノだったが、なぜかすぐに目に入った・・・
(・・・なんだろ?)
セルフィが首をかしげていると、作業員もそれを見つけた。
「ああ・・・ゴホゴホ・・・あの奥は物置になってます。ゴホ・・・」
煙の濃さに、かなり作業員は辛そうだ。セルフィは、なるべく作業員の傍に寄り添うようにする
「・・あれ?あんまり煙くなくなりましたね??」
不思議そうに首をひねる作業員・・・実は、セルフィはH.G.Iの能力の1つを応用して、ある程度の炎と圧力に対応できるバリアのような
耐熱耐圧フィールドを張ることが出来るのだった。あえて、そういう説明は他人にはしないようにしているが、セルフィがニューヨーク
レスキューで多くの実績を上げてる理由のひとつである。
ゲーム機と煙をなるべくよけながら、扉の前に立つ。
「ダメだ・・・やっぱり開かない・・」
セルフィが扉を調べてみるが、やはり扉はズレた壁の影響かビクともしない。
「ちょっとどいてください!さっきみたいに壊しましょう!」
作業員は、どこからか大きな斧を持ってきていた。斧は災害などの際に、障害物を壊すために設置されていたモノのようだった。
「ふん!」
ドカ!ドカ!!ばき!!
多少てこずったものの、すぐに扉を撤去する事に成功した!
「美由ちゃーん!!居ないかい!!」
「ミユー!!」
声をかけるが返事はない・・・しかし、その倉庫内は棚に乗っていたらしき荷物が散乱しているものの、あまり煙は入ってなかった。
「奥に入ってみるから、貴方はここにいて」
セリフィは、作業員を残し倉庫の奥へと入ってゆく・・・
(・・・なんだろう・・・この感じ・・・不気味な感じ・・・でもなんだか妙な感じ。恐怖ではない・・・いうなれば・・・)
と、そこまで考えていて、不意に壁に目が行く・・・と
「!!?な、何コレ??」
目が合った!と、セルフィは感じたその時!
ゴゴゴン!!
突然地響きがおき、床の一部が割れる!!とその瞬間、炎が割れ目から吹き出た!!
「危ない!!!!」
作業員が悲鳴を上げるのが聞こえたが、セルフィはとっさに動く事が出来ない!いや、いつもならとっさに伏せる事くらい出来たはず
だった!しかし、その直前に目にしたもののせいで反応が遅れた!!
(・・・やば!)
と、思った瞬間、割れ目に赤いモノが飛び込んだ!消火器だ!投げたのは恭也だった。そして、刹那飛針で消火器のバルブを正確に打ち
抜く!
バシュウウゥゥゥゥ!!
バルブに大穴を明けられた消火器が爆発するように消化剤を噴出し、セルフィに飛び掛ろうとしていた炎の勢いを削いだ!
「アルバレットさん!!早く!!」
「う、うん!ごめん!」
すぐさま、セルフィは物置を飛び出る!消火器で一時的に止めたが、すぐに炎は倉庫の荷物を糧に炎の触手をセルフィと恭也に伸ばす!
間一髪!倉庫を飛び出ると、作業員がゲームコーナーのベンチで倉庫の扉をふさいだ!
「危なかった・・・」
ベンチは炎を受け止め、3人が十分な距離を取る時間を稼いだものの、すぐに炎に絡め取られ燃え上がってしまった・・・
「あ、ありがと高町君。危なかったよ・・・」
「いえ。とっさでしたが、間に合ってよかった」
そうすすだらけの顔で微笑む恭也にセリフィは
「シェリー」
「え?」
一瞬なんの事だか分からないという恭也
「高町君。アルバレットって急なときは呼びづらいでしょ?シェリーでいいよ、みんな親しい人はそう呼ぶし」
と、同じくすすだらけの顔で微笑んだ。
「はは!じゃあ俺も恭也でいいですよ」
「そう?じゃあ、恭也君で」
そう言い合う2人に・・・
「あの〜言い忘れてましたが、私今井って言います」
「あはは。今井さんさっきはありがとう」
「イエイエ」
緊迫した状況は変わらないが、3人の団結はより固まった。3人の目指すは美由の救出のみ!!
・・・・地上ホテル前
セルフィ達が間一髪の危機にさらされていたころ、すでにホテル前には消防が集結しつつあった。
「急げ!まずは一般人の避難!野次馬の整理はボヤボヤするな!!」
先着した消防士たちが、ホテルから逃げ出した人々の保護、状況の確認に飛び回る。そこに、リスティも駆けつける
「地下に取り残された子供が居るみたいなんだ!!すぐに・・・」
「分かりました!おい!!突入部隊すぐに集合!放水隊、準備まだか?」
消防士たちをまとめるベテランの隊長は、すぐさま切迫した状況を理解し、準備を始める・・・が
「た、隊長!!消火栓に水が来ません!!」
「なんだと!?」
放水隊の悲痛な叫びだった。ホテル周辺にはしっかりとした消火設備があるにもかかわらず、その肝心の消火栓が機能しないのだ!!
「どういうことだ!?」
隊長が問いただすと、その消防士は必死に答えた。
「原因不明です!!ついさっきまで確実に水があったようなのですが・・・現在、使える消火栓を探してます。それに海から水を引く
準備をしてます。しかし、海から引くには手持ちのホースが足りません・・・」
「なんてことだ・・・」
状況は最悪だった・・・
「畜生!これが海鳴りの伝説か!!」
そう1人唇をかみ締める。
「海鳴り?なんだ、それ?」
それを聞いていた、リスティが疑問を口にすると、隊長は苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「ああ・・・ここいらの古い伝説でな、消防士達の間では結構有名な話なんだ」
その隊長は、リスティにかいつまんでその伝説について話す・・・
それは・・・リスティには信じがたい伝説だった・・・しかし、コレだけは確かだった・・・
「シェリー達が危ない!!」
・・・地下1階。地下2階への扉前
地上で消防士たちが地団太を踏んでるころ、セルフィ達は地下一階の捜索を終わり、さらに進む事にしていた。
「この下は、リネン室などがあります」
今井の説明では、このホテルは地下3階まで。地下2階はリネン室(要するにシーツなどの洗濯をする施設)、地下3階は今井が昼間
作業をしていた配管施設だ。
「よし!ミユ!今行くから!!」
(・・・銀・・いろの・・おねえ・・・ちゃん・・・)
セルフィはそう、力強く念じる。どこからで、美由が助けを求める声が聞こえたように感じた・・・
「ミユはまだ生きてる!この先で助けを求めてる!!」
セルフィはそういって恭也と今井を見渡す。セルフィは、こういう勘は冴えていると自分で思っていた!希望は絶対に捨てない!
セルフィはギュッと手を握り締める・・・先ほど一瞬目撃した異常なモノ・・・無邪気に笑っているような・・・そんなモノを振り払おう
とする・・・
「じゃあ!急いでいきましょう!!」
と、さっと斧を振りかざして今井がドアに向かった。
「あ!!今井さん!!ちょっと待って・・」
「え!?」
といった時には遅かった。渾身の力で振り下ろされた斧が、地下2階への扉を異常なほどざっくりと砕いた!とその後は悲鳴にもなら
なかった!!
ドゴォォォォォォォォォォ!!!!
「あ・・・」
今井が目にしたのは、痛いほどの熱気の白い壁・・・彼の意識はそこでプッツリと途絶えた。
「今井さーーん!!」
今井の体が、すさまじい炎と爆風にボロ雑巾のように吹っ飛ばされるのがセルフィに見えた。
バックドラフト・・・炎が燃えるには、当然空気が必要だ。正確には酸素が必要である。しかし密閉された空間にはその酸素が少ない。
しかし、炎は消えることなく少ない酸素を使い確実に触手を伸ばし続け、その足りない酸素が補われるのを燃焼性ガスを排出しつつ待ち
続けるのだ。そして、酸素が大量に補充された瞬間、爆発的にその破壊の力を解放する!!それがバックドラフトだ。
消防士たちは、コレを最も警戒する。しかしそれでも、多くの消防士たちの命を吹き飛ばし続ける悪魔だった。
すさまじい炎は今井の体を飲み込んだ後、すぐに空中に消えていく。その時!
「!!!」
「なんだ!?アレは!!」
扉から若干離れていたため難を逃れたセルフィと恭也は、その炎に信じられないモノを見た!
「・・・笑ってた!?」
「・・・うん」
恭也とセルフィの目の前に現れたのは、笑った炎の顔だった!それは一瞬で掻き消えた。その顔は弱者をいたぶるような外非た顔でなく、
まるで新しいおもちゃを与えられ、無邪気に笑う子供の顔・・・
「そ、それよりも・・・今井さん!!」
セルフィは慌てて、今井の姿を探す・・・と、扉から大きく吹き飛ばされた場所に変り果てた今井の姿があった。セルフィも何度か見た
焼け焦げた人間・・・慣れる事はない
「・・・まだ息が有る!すぐに運べば助かるよ!」
が、それでも冷静に状況を確認する事が出来たのはセルフィも自分に驚いた。
「大丈夫だから!絶対に死なせないからね今井さん!!」
今井の力のない手を握り、懐から携帯電話を取り出しリスティの番号にあわせる・・・と、そこで重要な事に気がついた!
「しまった!地下だから携帯電話がつながらない!!リスティに連絡する方法がないよ・・・」
誤算だった・・・いや、そのくらいここに突入する前に、気がつくべきだったのだ・・・
セルフィは、要救助者を安全地帯に飛ばすためのトランスポートの能力が有る。だが、それはしっかりとしたサポート体制があって
こその能力だった。ニューヨークレスキューでは、あらかじめ転送ポイントを設置しておいて、そこに飛ばすのだが今回はそれが無い!
この状態で今井を飛ばしたら、いきなり地面に今井の体を放り出す事になる。それだけならまだしも、座標によっては地上数十メートル
の空中や、地面の中に飛ばしてしまう可能性が有る。そうなったら絶対に助からない・・・
せめて、リスティに連絡が取れれば、転送ポイントの座標を設定してもらう事が出来たのに・・・
「・・・恭也君。お願いが有るの・・・」
「はい、俺に出来る事なら・・・」
セルフィは、今井の手を置くと恭也に向き直って
「今井さんを連れて、戻って!」
「それは良いですけど・・・!!シェリーはどうするんです?」
しかし、恭也はセルフィの目を一目見て、それは愚問だったと思った。
「僕はミユを助けに行く!」
やっぱりと思いながらも、恭也は
「しかし、せめて俺が戻るまで待ってください!!」
「ダメ!そんな時間無い」
確かにそのとおりだ、先ほどのバックドラフトの後、明らかに炎は激しく地下1階も侵食しつつあった。
「しかし・・・」
苦しそうに呻く恭也にセルフィはにっこりと笑いかける。
「大丈夫だよ!僕には大切な人たちを助けるために使える力が有る。だから今回は約束する!恭也君は今井さんを必ず助けて!私はミユを
絶対に助けるから!!」
そう、セルフィは強く言い切った。それに恭也は、うなずくしかなかった。
恭也は今井の体をしっかりと担ぐ
「シェリー・・・もう1つ約束してください。美由ちゃんを助けて貴方も一緒に戻ってくるって!」
そう真剣に言われて、セルフィはあちゃあ〜と言ったような顔になり
「うーん、やっぱり突っ込まれちゃったなあ・・・わかったよ!約束!!」
にっこりと笑った。
それに満足して、恭也は後は振り返らずに地上に向かって行った・・・
「・・・さて・・・何者かは知らないけど・・・ここからは一対一の決闘だよ!」
セルフィは、炎と不気味なうなり声を上げる地下へさらに足を踏み出していった。
・・・地上、火災消火本部
「くそ!!消火栓は全滅だ!!」
ダンッと、付近の地図をにらみながら隊長は毒づいた。駆けずり回って調べた結果、すべての消火栓から水が出なかったのだ。
結局、今は全力で海から水を吸い上げる準備をしている・・・それでも、絶対的に手持ちのホースが足りず、応援の到着を待つ
しか出来ない状態だった。その一方で避難してきた人々の整理と、怪我人の手当てと病院への搬送は始まっていた。
「後は水だ・・・水さえあれば・・・」
と、そこに突入部隊の班長が駆け込んできた!
「隊長!もう限界ですよ!!放水隊は待ってられません!手持ちの装備で突入します!」
何度か同じように班長が具申して来たが、隊長は消火栓の望みにかけていたので、それを引き伸ばし続けていたが、これでやれる事は
1つになった。
「よし。分かった!地下への突入を許可する!」
「ハイ!」
これにより、決死の突入が許可された!リスティにより、内部には一般人がすでに子供の救出に入ってることを聞いて、消防士たちは
驚いたがセルフィがニューヨークのレスキュー隊員だと聞いて、納得していた。どこの国でも、消防士の誇りは同じなのだ。彼らも
セルフィの決意が分かったのだ。
「よし!前進!!」
班長の言葉で、地下への階段を下りてゆく突入部隊・・・とその時!
「こっちです!手を貸してください!!」
と声が聞こえた!!恭也である!
地下一階はすでにカナリ炎と煙が立ち込めていたが、恭也の運動能力のおかげで、なんとか閉じ込められずに今井の体を担いで脱出し
てきたのだ。
「おい!大丈夫か!?」
「重傷者1名!!担架を急いで!!」
「救急救命処置の必要有り!!」
突入部隊はとにかく今井を担架に乗せると、急ぎ救急車へ運ぶ準備をする。
「おい!大丈夫か?」
班長は恭也の肩を叩く、
「中に・・・下にまだシェリーと美由ちゃんが居ます!!」
恭也は、肩を支えられながら建物から連れ出されてゆく。
「分かった!!あとは我々に任せるんだ!後送要員を除いて全員続け!!」
恭也にねぎらいの言葉をかけると、班長を先頭にドカドカと突入部隊の残りが地下へと踏み入れていく。
しかし・・・
「うわ!!」
ドォン!
いきなり突入部隊の前に炎が立ちふさがった!それは生き物のように、彼らの進路をふさぐ!!
「クソ!!パルスガン一斉射用意!!」
突入部隊の面々は、背中につけたライフルのような道具を構え、バルブの操作を行って構えた。
「テェ!!」
バシュン!!
ライフルの銃口から、霧状の水が猛烈な勢いで飛び出し、炎の壁を吹き飛ばした!!
これは、消防庁が近年採用した小型の消火器具だ。ウォーターパルスガンと一般に呼ばれる装備で、圧搾空気で水を発射し火を消火する
モノだ。これは、非常に少ない水で高い消火能力を引き出すため、彼らのような突入部隊に配備が始まったのだ。
この新兵器の能力で、突入部隊は必死にセルフィを追いかける・・・
・・・地下2階、リネン室
そのころ、セルフィはいよいよ危険な雰囲気にさらされていた
「なに??これ・・・」
セルフィの立つ地下のリネン室は地下1階までの状況をはるかに超えた異常な状態だった・・・
壁は大きくズレて、ひび割れ、瓦礫が散乱している・・・
「こんな状態って・・・」
そんな状態にもかかわらず、内部に入ってゆくと、段々と煙や炎が小さくなってゆく・・・
「ミユ〜!!」
大きな声で呼びかけると・・・
「・・・お・・おねえ・・・ちゃん・・・」
小さく、だがはっきりと、声が聞こえる!!
どこ!?・・・セルフィは必死に呼びかけながら駆け出す!!
「ミユ!!ミユ〜!!どこ??」
と、ふと更に下の地下3階への階段を見つけた。
「ミユ?!そこに居るの??」
セルフィは階段の奥に声をかける・・・と
「おねえ・・・ちゃん・・・」
「ミユ!!」
確かな声が返ってきた!!セルフィはすばやく身をひるがえすと、滑り落ちるように階段を下った!!
そこには・・・
「ミユ!!ミユ!!しっかり!!」
壁にもたれかかり、ぐったりしている少女。白いスカートはところどころ破れて煤けているが、間違いなくミユだった。
「う・・・ん・・・?銀色の・・おねえちゃん??」
うっすらと目を開けて、美由はセルフィの顔を見た。彼女は意識は朦朧としていたが、確かに生きている。
「うん!そうだよ!!銀色のお姉ちゃんだよ!!さあ、一緒に帰ろ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも待ってるよ」
そっと抱きかかえると、ミユはコンコンと咳き込んだ。それに、セルフィは少し違和感を覚えた。
「あれ?ミユ。どうして濡れてるの?」
美由はぐったりとしていて答えられない。
セルフィは今まで通ってきたところを思い返してみるが、特に水が漏れているところは無かった・・・それどころが、本来動いている
筈の、スプリンクラーも全く動いた様子が無いのだ。しかも、よく見るとミユの服にしみこんでいるのは・・・
「・・・海水?」
何故?と思ったとき、突然セルフィにゾクッと悪寒が走った!!
「誰!!?誰か居るの??」
ミユを抱きしめ、後ろを振り返ると・・・
・・・クスクスクスクス・・・
スルッと、配管の間に消えていく影が見えた気がした。
「・・・誰?・・・逃げ遅れた人がまだ居るの??」
そういって、影が消えたほうを見つめる・・・だが・・・
(・・・違う・・・逃げ遅れたのはミユしか居ない・・・ここには・・・僕とミユしか居ない)
そう何故か確信がもてた・・・そして、その一方で得体の知れない何かの気配も感じ取れた・・・
「ミユ、しっかり僕につかまっててね」
セルフィは、とにかくここから脱出しようと、階段に足をかけた・・・とその時!
ボワァ!!
「キャアァ!!」
突然階段の上から炎が上がった!!何の前触れも無く・・・いや、前触が無かったわけではない、1階の状況を考えれば2階は火の海
でもおかしくなかったのに、火が弱かったのがおかしかったのだ。
「おかしいよ・・・絶対、いったいなんなの?誰か居るの!!?」
そうセルフィはその配管の入り組んだ暗い部屋の中を見渡す・・・と、腕の中のミユが目を開けた。
「うん・・・居るよ・・・小さい女の子が・・・」
ゆっくりと、ミユが暗闇のほうを指差す、すると
「え?!」
・・・クスクスクス・・・ミツカッチャッタ・・・
ぼんやりと、声だけが響いた。
「・・・誰?貴方は誰なの??」
セルフィは呆然と聞く。あまりに邪気が無く、あまりに純粋に楽しそうな声に・・・
・・・ワタシ?・・・ワタシハワタシダヨ・・・ソンナコトヨリ・・・ネエ?マダワタシアソビタリナイヨ・・・
また声だけが響いた。それにミユが小さくでもハッキリと声をかける
「ねえ、ここじゃあんまり“しあわせ〜”になれないからさ・・・みんなの居るところに行こうよ」
・・・エーーー?・・・ソレハダメダヨ・・・ダッテ・・・イマスッゴクオモシロインダモン!・・・
ズドン!
その謎の声が終わると共に、上の階で何かがはじけた!
「な、何をしたの!?」
とっさにセルフィが叫ぶ!
・・・クスクスクス・・・ナンダカイッパイ・・・オトコノコガアソビニキタカラ・・・アソンデアゲテルノ♪・・・
・・・地下1階、2階間の階段付近
ズドォン!!
「うわぁ!!きりが無い!!」
バシュバシュバシュ!!
突入部隊の面々は、まるで意志を持ったように襲い掛かる炎に進路を阻まれていた。いくら新型のパルスガンでも持てる水の量には
限界が有る。それを上回る勢いで炎は包み込んできた!!
「クソ!!ダメだ!」
「班長!!もう水が残り少ないです!!」
隊員が悲鳴を上げる!
「すぐそこに助けを待ってる人が居るってのに!畜生!!」
班長は悪態をつくと言った。
「全員一時撤収!!水の補給と放水隊の支援を待ってから再突入す」ズドォォォォン!!!
とそこまでしか、突入部隊の隊員は聞き取れなかった。
ひときわ大きな炎が上がり、それに追われ彼らは地上に弾き出された・・・
・・・地下3階、配管施設
ゴゴゴゴゴン!!
上の階でまた一際大きな振動が起こった。
・・・アーア・・・ミンナカエッチャッタ・・・
謎の声がまた響く・・・相変わらず、その声にはなんの悪意も無い・・・
「いったい何がしたいの?貴方は・・・」
・・・ワタシ?・・・ワタシハ・・・ウタウコトニ・・・チョットアキタカラ・・・アソンデルダケダヨ・・・
声はひたすら無邪気だった。そして、セルフィの目の前に何の前触れも無く、少女は現れた!
「!!!」
・・・モウ・・・アナタタチダケニ・・・ナッチャッタ♪・・・
そういって、そこにフワフワと浮いている存在・・・それは無邪気な少女の表情をぼんやりと作っていた・・・
「・・・貴方だったのね・・・僕を炎で包もうとしたり、今井さんを吹き飛ばしたのは!!」
それは、セルフィが地下1階の倉庫で見た顔。そして、今井を吹き飛ばした炎に浮かんだ顔だった!!
・・・ソウダヨ♪・・・ナンダカドッチモ・・・シッパイシチャッタミタイダケド♪・・・
クスクスと笑いながらその少女はくるくるとその場で回転した。そして、まるで親しい友達に話しかけるように言った
・・・コレカラ・・・ワタシノバショニ・・・ツレテッテアゲルネ♪・・・
「貴方の・・・場所?」
セルフィは首をかしげる。
・・・ソウ・・・アナタタチニンゲンノ・・・コキョウデモアルンダヨ・・・
そういうと、少女の姿が渦を巻いたように掻き消えると、そこから猛烈な水の本流が生まれた!!それは、セルフィと美由の体を
一気に包み込んだ!!
「わぁぁぁ!!」
セルフィと美由には、それに抗う事は出来きず2人の意識は吹き飛ばされていった・・・。
・・・暗い・・・
・・・でも暖かい・・・
セルフィが気が付くと、真っ暗だった・・・
「え?ここは・・・いったい・・・!!キャァ!」
ふと気が付くと、服を着てない・・・いや、そもそも自分にハッキリとした実体が無い事に気がついた。
「ここは皆の故郷なんだよ♪」
と、先ほどの少女の声が、今度はハッキリと聞こえた。
「どこ?どこに居るの?!ミユは?」
「銀色のおねーちゃん〜」
セルフィの問いに、ミユの声が聞こえた。セルフィは必死に目を凝らす・・・すると、真っ暗だった世界が青みを帯びてくる。
それは幻想的な世界だった・・・
「わぁぁぁぁ・・・」
上も下も深い青・・・そして、それは絶え間なく緩やかに揺れていた・・・そして
「あれは・・・鯨?・・・それに・・・他にもたくさん」
そこにはまるで揺り篭に揺られて眠るように、様々な生き物がそこかしこに浮かんでいた。その中には人の姿もあった・・・そして
「ミユ!!」
その空間の真ん中に、美由の姿がくるくると回っていた。
「ミユ!!」
もう一度呼ぶと、ミユも気が付いて手を振ってきた。
「銀色のお姉ちゃーん!こっちだよ!」
セルフィがミユの場所に意識を集中すると、実体の無い自分の意識が飛んでいくのが分かった。そしてミユの傍に寄る。
「銀色のおねーちゃん!一緒にあの子を捕まえて!!」
ミユはそういってセルフィの手を引く。
「え?あの子って・・・?」
と、ミユの指差す方向を見ると・・・
「あ!!」
「クスクスクス♪ミユちゃんには捕まらないよ〜」
そういって笑う、少女が居た!彼女だけ、しっかりとした実体を持っていて、浮いている生き物達の間を飛び回っていた
「貴方は・・・さっきの」
そう、先ほど配管室でセルフィと美由の体を水で包み込んだ張本人だ。
「まってよ〜〜!!ねえ〜〜!!」
美由は少女を追いかけて飛んでいく。
「あ!ミユ!!」
セルフィも慌てて後を追う。それが面白いのか、少女はどんどん遠くへと飛んでいってしまう。
「クスクスクス・・・こっちまで来れる?」
「待ってってば〜〜!!ねえ!」
美由が必死に呼びかけるが、少女はクスクスと笑いながら飛んでいく。
「ねえ!!こんな寂しいところじゃなくて、もっと楽しいところが有るよ!!アタシたちのところにおいでよ!!」
美由が少女にそう呼びかけると、突然少女はスピードを落とし、有る場所にたどり着いた・・・
「これは・・・」
追いついたセルフィが見上げると、生き物達の浮かんでる場所のちょうど真ん中のようだった・・・そこにはどこまでも続くような巨大
で長いパイプのような者が何本も天に伸びていた・・・
「これ・・・パイプオルガン?」
そう。パイプの下には大きな鍵盤と少女に合わせたような小さな椅子が1つ・・・
「これは私」
少女はそういって小さな椅子に腰掛ける。そして微笑む。
「ここが私の居るべき場所・・・ここから歌を歌うの・・・」
そういうと、少女は鍵盤を幾つかはじいた・・・
コォォーンコココォォーン・・・
空間すべてに響くような幻想的な音が響いた。
「すっごーい!!」
美由は、少女を追いかけていた事すら忘れてそのオルガンに目を見張った。
「私ここでいつも歌を歌うの。朝も昼も夜も・・・だからここから離れるわけには行かないの・・・でもね」
と、少女はくるりとまたセルフィと美由に向き直る。
「時々飽きちゃうんだ♪そんな時は、遊びに行くの♪」
少女はクスクスと笑いながら、セルフィと美由の周りを回る・・・
「そして、時々こうして他のところからここに招待するんだ〜」
それまでの少女の無邪気さに、毒気を抜かれて呆然としていたセルフィだったが、ハッとして
「ちょ、ちょっと!あのホテルでの出来事はもしかして・・・遊び?」
真剣な顔で少女に問う
「そうだよ♪・・・どうしたの?面白くなかったの?」
少女は不思議そうにセルフィの顔を覗き込み、にっこりと笑う
「ふ・・・」
セリフィは肩を震わせて、少女をにらんだ。
「ふざけないで!!貴方は人の命をなんだと思って!!・・・今井さんや他にもたくさんの人を傷つけて、それが遊び?!楽しかった
かって何!?」
セルフィは少女を捕まえようと、手を伸ばすが少女はすっとよけてしまう。
「何を怒ってるの?命って何?貴方達人間は・・・いいえここに住むすべてのみんなは、ここ・・・海が故郷なんだよ?ただ、私は
みんなを海に招待しようとしただけなのに・・・」
少女は少し怒ったように顔をむくれさせて、セルフィと美由の周りを回り出す。セルフィは少女の言葉に、いよいよ怒りがぼんやりと
した体中に行き渡っていくのを感じた。
「命って・・・貴方・・・貴方はぁぁぁ!!」
「やめて!おねーちゃん!!」
セルフィの怒りの叫びを押しとめたのは、美由だった。
「ミ、ミユ!?」
そして、美由は少女にまっすぐと向かい合う。
「ねえ・・・あなたは、ちょっと寂しかったんだよね?」
美由の小さな声が、妙に響いた。その言葉に、びくっと少女の肩が震える。
「・・・そうだよ・・・だって、みんな少しずつだけど・・・ここから・・・海から居なくなっちゃうんだもん・・・だから、私は
寂しいんだ・・・」
美由と少女の話しを聞いているうちに、セルフィはふと気が付く。
「ここって・・・海の中?」
「そうだよ。ここは海の思いの中・・・私は海・・・海の意思・・・海の精・・・海の悪魔・・・海そのもの・・・」
少女はクスクスと笑いながら、セルフィの問いに答える。美由はそんな少女に語りかけ続ける
「初めて貴方を見たときに思ったの・・・『あ〜寂しい人発見!』って。だからアタシは貴方を追いかけて・・・」
「え?ミユ・・・貴方もしかして・・・」
セルフィは何故美由がホテルの地下なんかに入ってしまったのか察し驚いた。
「うん。この子がホテルで寂しそうに歩いてるのを見かけたの・・・だから追いかけていって・・・」
美由はセルフィに「ちょっと失敗しちゃったけど」と笑いかけた。
「そうだよ♪ミユは自分から遊んでくれるって言うから、すぐにここに招待したんだ♪」
少女はそして悲しそうに続けた。
「でも、ミユ以外の人は中々来てくれなかった・・・」
少女の表情が陰る・・・そして
「私は寂しいんだよ・・・私はこんなに・・・こんなにみんなを見てるのに・・・中々みんな来てくれなくなったんだもん!!」
ゴォォウ!!
少女がそう怒って叫ぶと、空間の流れが荒々しくなった。
「うわ!」
「キャア!」
セルフィと美由は一瞬飛ばされそうになるのを、必死に耐える。少女はなおも怒鳴り続ける。それに伴いだんだんと流れも乱流になり渦を
巻きはじめる!
「私は寂しいの!!!!」
「だったら、アタシの“しあわせ〜♪”を分けてあげるから!!」
「え!?」
突然の美由の言葉に、少女の叫びはさえぎられる。空間の流れもそれに伴って、ぴたりと止んだ。
「アタシの“しあわせ〜♪”を分けてあげる。一生懸命分けてあげられるようにするから!!」
美由はそう叫んで、少女に近づいていく。
「どういう事?・・・一緒にここに居てくれるの?」
少女は不安と期待を込めた視線を美由に向ける。それに美由はちょっと悲しそうに首を横に振る。
「ここじゃアタシは“しあわせ〜♪”になれないよ・・・だからここに居ちゃ“しあわせ〜♪”を分けてあげられない・・・だけど、今
私に残ってる“しあわせ〜♪”を少しだけ分けてあげるよ・・・」
そういって、美由は少女の手を取る。すると、美由の手が淡く光りそれが少女に移ってゆく・・・
「え!?・・・なに?これ・・・」
少女は戸惑いつつも、その光に身を任せる。美由は目を瞑ると、いろいろな“しあわせ〜♪”を伝え続ける。
「これはね〜♪この前おかーさんが美味しいお菓子を持って来てくれて“しあわせ〜♪”だったときの。これはね、おねーちゃんがコージ
おにーちゃんに、“しあわせ〜♪”にしてもらう約束をしてもらった時の。あとねえ・・・」
美由から少女に光が移っていく・・・
「ねえ、銀色のおねーちゃんも♪」
「え?僕はどうしたら・・・」
美由に言われて、セルフィはどうすればいいか分からず焦る。それを美由は
「もう〜・・・教えてあげたでしょ?銀色のおねーちゃんが“しあわせ〜♪”に思えばそのままこの子にも伝わるんだよ♪」
そういわれて、美由に促されてそっとセルフィも手を添える。そして・・・
「うーん・・・」
(しあわせ〜・・・ママ・・・クレア・・・リスティ・・・フィリス・・・ゆうひ・・・それに恭也・・・)
セルフィは胸の中に、いろいろな人の顔が浮かび、そしてその笑顔がセルフィの胸にも光を与えた。
「・・・暖かい・・・凄く暖かい・・・」
「うん♪」
「・・・あぁぁぁぁ・・・」
いつの間にか、光は3人を包み込んでいた・・・そして少女は、穏やかに微笑んでいた・・・
「うん・・・ありがとう。そろそろ、遊びも終わらなくちゃ・・・」
少女は、ふっとそういってセルフィと美由の手から離れる。そして、パイプオルガンの椅子に座った。
「え?一緒にアタシたちのところに来ないの?そうすれば、もっとたくさん“しあわせ〜♪”をあげられるのに・・・」
美由が少女を引きとめようとするが、少女は首を横に振った。
「私が居なくなったら、まだ海に居てくれる皆を守ってあげられないし・・・大丈夫だよ!ミユには“しあわせ〜♪”を教えてもらった
から♪」
そういうと、少女は微笑んでオルガンに向かう。
「今日は楽しかった・・・ミユに会えてよかった・・・それにそっちのお姉ちゃんの思いも分かったよ・・・」
そして少女はオルガンを奏で始め、言った
「“しあわせ〜♪”っていいね・・・さっき分かったんだ・・・ミユ達が“しあわせ〜♪”になるにはここじゃダメだって。だから、私
が“しあわせ〜♪”になる事も出来ない・・・」
少女のオルガンの音がだんだんと遠くまで響き始める・・・神々しく・・・
「だからね♪今回は貴方達を元のところに返してあげる♪こんな事ほとんど無いんだから♪」
と少女が振り返った時、突然大きな流れが起き、声をあげる暇も無く美由とセルフィを吹き飛ばした・・・
・・・貴方達が“しあわせ〜♪”でありますように・・・
・・・・・・
「はっ!!ここは!?・・・ミユ!!」
セルフィが気が付くと、そこはホテルの地下3階の配管室だった!!
「う・・うん・・・銀色のおねーちゃん?」
「ミユ!!しっかり!!」
美由はぐったりしているが、確かに意識があった。
「あの子は??・・・」
美由の問いかけに、ハッと周りを見渡すが、そこには依然感じた違和感など一切無かった。
「・・・あの場所に残ったみたいだね」
「・・・そうなんだ・・・」
2人がちょっと気を落としたとき・・・
ドカン!!
「!!!」
「キャア!!」
地下室のそこかしこから、火の手が上がった!!
「あの子!いくらなんでも、元の場所そのままに送り届ける事無いんじゃない!?」
セルフィが毒づく。少女の影響力が無くなったのか、現場はごく普通の火災になっていた!以前の不気味な生き物のような炎はほとんど
無い。ただ物理法則にのっとって燃え広がっていた!!それでも、セルフィと美由にとっては十分脅威だ・・・
「くっそう・・・せめてミユだけでも一か八か、トランスポートで・・・ミユ!ちょっと目を瞑って!少しだけ我慢するんだよ!!」
セルフィはミユをしっかり抱きかかえて、できる限り安全な場所の座標を推測した・・・とその時
プシャァァァァァァ!!!
「!!スプリンクラーが!!」
それまで全く機能してなかった、スプリンクラーが作動し始めたのだ!
それによって、炎が一気に小さくなっていく・・・これなら、この場所で救助を待っても大丈夫そうだ・・・
ホッとそう思ったセルフィは全身から力が抜けるのを感じた・・・
「・・・あれ?スプリンクラーから出る水って塩っ辛かったっけ?」
・・・そこでセルフィの意識はまた深い闇に落ちていった・・・おぼろげに、「奇跡だ!!大丈夫!!助かるぞ!!」という人々の
喧騒が聞こえたような気がした・・・
・・・その後・・・海鳴、海岸付近
ゴ・・・ゴゴン・・・
海鳴りは今日も響く・・・
「おお〜この前は海鳴りが止んだから、不吉だったが・・・今日はまた良い海鳴りだな・・・」
釣り好きの老人はそういって、いつもの指定席から釣り糸をたらす・・・
「この前言ってた、海鳴りの伝説かい?おっさん」
釣り仲間の男は老人にそういいながら、自分の釣りの仕掛けを作っている。
「ああそうだぞ。なんだ?お前知らなかったけえ?伝説のこと」
「教えてくれよ。なんだいその伝説って?」
男はちょっと興味深そうに老人に聞くと、老人はふっと釣竿の先を眺めながら語りだす
「海鳴りって奴はな、海が歌ってるんだってさ」
「海が歌ってる?」
男は老人の横に座って、老人の釣り竿の先を見て聞く
「ああ、海は歌う事でそこに住む生き物に力を与えてるって話だ。でもな、時々海はそれに飽きてくるんだ」
「はあ?飽きるって・・・」
「そりゃそうだろ?毎日毎日朝も昼も夜も歌ってればいくら歌がすきでも、時には別のことをしたくなる」
ふうんと男は相槌を打つと、自分も釣竿をたらす。
「だから、海鳴りがならないのは海が歌うのに飽きちまった時って事さ」
「じゃあそれが何で、不吉になるんだ?」
男の質問に老人はにやりと笑う
「歌に飽きると、海は面白い事を探すんだ。海って奴は無邪気な子供みたいなもんだ。とんでもない嵐を起こして遊んでみたり、船を
沈めてみたり・・・それくらいなら良いが、時には寂しさを紛らわすために、人を飲み込んで自分の住処に連れ込んで一緒に遊ぶっ
て話しだ」
「なんだか怖い話しだな・・・」
男はちょっと気味悪そうに言った。
「いや、海には悪意なんて無い。むしろ善意も無いさ。どこまでも純粋なだけさ」
「じゃあ、なるべく海を飽きないようにしてやらないとなあ・・・」
「そう思うなら、海の事ちゃんと考えてやりな。俺たち人間はもともと海の中で、海と接してたんだからな。それだけで、海はきっと
寂しくならないから歌を歌い続けてくれるようになる!」
「う〜んそうか・・・海海海さ〜ん・・・魚がつれますように・・・」
「おい・・・それはなにか違わねえか?」
「はっはっは」
老人と男が笑い会ってると・・・竿が揺れた!!
「おお!!おっさんなんか来たか!?」
「ぬぉ!?」
2人はジッと、釣り糸をたらした海を覗き込む・・・と・・・
ジャポンっとシュノーケルをつけた男が浮かんできた。
「よう♪爺さん!!下は魚一杯居るぜ〜♪じゃあな〜」
ジャポン・・・
「「・・・」」
一瞬の出来事で、そういい残して、男は波間に消えた・・・それを見て、老人と男は無言で足元の岩を持ち上げ・・・
「ざけんな!ボケ!!あがってこいやぁぁぁ!!」「てめえ!さっきから釣れネエと思ったらてめえが居たのか!!」
一斉に岩を男がもぐって言った場所に落としまくった・・・
今日も人々は海を思う・・・
・・・ホテル火災から2週間後、海鳴市臨海公園特設ステージ
「SEENA〜〜〜〜〜!!」「わぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」
そこは、多くの人々声援に包まれていた・・・
『は〜〜い!!それでは次の歌は私の新曲です♪』
ステージの上では、SEENAこと椎名ゆうひが、最高の笑顔でその歌を披露していた・・・
2週間前のホテル火災の影響で延期されていた、ゆうひのコンサートがこの日開催されたのだ。延期の理由として、一般には「SEENA
が火災の煙を吸い込んでいる可能性が有るので、専門医による喉のメディカルチェックのため」という事になっていた。
そのステージの特別に作られた特等席に、セルフィは居た
「はぁ〜〜〜ゆうひの歌はいつ聴いても良いよねえ〜」
ため息をついて歌に聞き入るセルフィの横に、同じく歌に聞き入る恭也も居た
「そうですねえ」
ホテル火災は、突然作動したスプリンクラーのおかげで状況が一変。突入部隊の再突入で、セルフィと美由を救出する事で事態の解決を
見た。その後の調査で、火災の直接の原因はホテルのガス配管が地殻の変動で破損。漏れ出したガスに引火したという事だった。それは
ホテル側の点検ミスだとか、地下のコンクリート壁の強度不足だったのではと一部で騒がれ、一時は警察すら動く自体だった。
しかし、精密な検査の結果、コンクリートにもホテル側の点検にもミスは見当たらず、結局何らかの原因で、すさまじい力がホテル地下に
掛かったため、コンクリート壁すら破損させてパイプを破損させたと言う、結局原因不明とされることになった・・・
「しかし、こうしてゆうひのコンサートを五体満足で見れるなんて、運が良かったなー僕♪」
と、セルフィが思わず口にする
「まったく、丈夫さだけは一人前だな・・・」
と、恭也の逆側に座ったリスティがボソリと呟いた・・・ちなみに、会場内は火気厳禁なためか、リスティはストローをくわえている。
「うっさいなあ!!でも・・・僕が病院に担ぎ込まれたとき、ワンワン泣いてなのは誰かなあ?」
セルフィはニヤリとリスティを見る。リスティはそれに怒りかテレてか、真っ赤になった
「な!?あの時はそのだな・・・」
リスティはスカスカとストローに息を吹きながら、セルフィに詰め寄った!
「まあまあ・・・結局運良く怪我も無く助かったんですから・・・」
と恭也がたしなめるが・・・
「あの〜・・・私はエライ怪我したんですけど・・・」
と、恭也の前の席の男・・・かどうか分からないくらい包帯ぐるぐる巻きのミイラが言った・・・
「あ・・・すみません(汗)今井さん・・・しかし、よく病院の許可下りましたね・・・」
恭也が心配するのも無理は無い・・・コンサート会場にいる今井はまさにとんでもない姿なのだ・・・しかも点滴も常時携帯・・・
今井は恭也によって地下を脱出後、すぐに病院に運ばれた結果かろうじて一命を取り留めた。それから僅か2週間。本来なら病院に
縛り付けられてる筈だったが、ゆうひがコンサートに火災のときに活躍した人々を招待したいと言う話しを聞いて
「酒と美人の誘いは断れない!!」
と言い出して、ムリヤリ病院の許可を取って出てきたのだ・・・
「ホントはダメなんですけど・・・なんで男の人って言う事聞いてくれないんでしょう・・・」
と、今井の横でさめざめと涙を流すのは、今井のお目付け役にされたフィリスだったりする・・・
「そうだよ〜〜今井さんの言うとおり、全然良くないよ〜!!恭也君!!せっかくの買ったばかりの服がダメになっちゃったんだ
から〜!!」
と、セルフィもがっくりと肩を落として言う
「はん!変に色気づいた服着るからだよ!」
「なんだよ〜〜!!」
リスティが絡み、セルフィも食って掛かる。恭也はやれやれとため息をつくしかなかった。と
『こら〜!!そこ〜!!姉妹で男を取り合ってるんじゃない〜!!』
「「げっ!?」」
なんとステージ上のゆうひがMCの途中で指を指してきた!
ドッと会場に笑いが広がる。
「うう〜〜ゆうひ覚えてろ〜」
「ひどいよ〜ゆうひ・・・」
リスティとセルフィが悪態をついていると、ひょこっと後から女の子が顔を出した
「はあぃ!シェリーおねーちゃん!きょーやおにーちゃん♪“しあわせ〜♪”そうで先生は嬉しいですよ♪」
美由だった。セルフィと一緒に救助された美由は、ほとんど外傷も無く、セルフィと同じようにすぐに退院する事が出来ていた。
「なあ!?ミユ!?それはどういう事よ?」
「ふっふっふ・・・そのままの意味ですよ♪きょーやおにーちゃん。シェリーおねーちゃんを“しあわせ〜♪”にしてあげてね♪」
「むう?よく分からんが、わかった」
「えぇぇ!!?」
「ちょっとシェリー!?どういう事!?」
「ああ!ちょ・・・フィリス先生!!て、点滴握りしめないでください〜〜ぎゃああ〜!!」
「え?ああああ今井さん〜しっかり!!」
「恭也・・・後でちょ〜〜っと話しが有るから♪」
「あのリスティさんちょっと怖いですよ?」
『だから〜!!なに騒いでんのよ〜〜〜!!!!』
“しあわせ〜♪”な喧騒に包まれる会場だった・・・(今井哀れ・・・)
・・・コンサート後
「シェリーおねーちゃん!海が綺麗だよ〜〜!!」
セルフィは、いまだ興奮の収まらない会場を抜け出し、美由と海の見える場所に来ていた。
「うん♪綺麗だね〜・・・」
と、美由が海に向かってお祈りをするようにする。
「ミユ?」
「えへへ・・・海のあの子にも今のアタシの“しあわせ〜♪”を送ってるの♪」
そういって照れた様に笑った。それを見て、セルフィは美由にウィンクして
「もう♪言ってくれれば僕も一緒にしたのに〜」
と、美由にならんで海に向かって祈る。そして、あの最後のときを思い出す・・・
・・・貴方達が“しあわせ〜♪”でありますように・・・
そう確かに聞こえた・・・そして、あのホテルでのスプリンクラーの作動。あの後調べたところ、スプリンクラーの配管も破損しており
どうして水が出たのか分からなかったそうだ。しかし、今考えてみるとあの時出た水は海水だったように思えた。実際、消防も海水を
海からくみ上げてきて最後の消火活動を行ったため、確認する事は出来なかったが・・・
(あの時、あの子が私たちを助けてくれたのかな?)
セルフィはそう思うようにすることにした。
「そうそう!ミユ・・・はいこれ♪」
と、セルフィは持っていた花束をミユに渡す。
「これって?」
「うん。遅くなっちゃったけど、ミユの退院のお祝い♪」
ミユはにっこり微笑んで受け取って
「ありがとう♪」
といった。
「ふう♪・・・それじゃあシェリーおねーちゃんが今度は“しあわせ〜♪”にならないとね〜♪」
「え?」
花束の花をチョンチョンとつつきながら、美由はそう言ってセルフィを見る。
「ウチのおねーちゃんとコージおにーちゃんはもう一心同体で“しあわせ〜♪”だし・・・私が思うところ、次はシェリーおねーちゃん
の番だと思うのですよ♪」
そういってセルフィを見つめる。
「え?!で、でも僕にはそういう人は・・・」
「え?きょーやおにーちゃんがるじゃない♪見たところ鈍そうだけど、押し切ればうまくいくよ♪」
何気にとんでもない事を言う美由にセリフィはたじろぐ
「わ!?ミ、ミユとんでもない事いってない?」
「別に私はいいんだよ〜。きょーやおにーちゃんの相手が、リスティおねーちゃんでも、フィリスせんせーでも・・・それになんだか
きょーやおにーちゃん一杯ガールフレンドが居るみたいだし♪」
そういって指折り数えるミユにセルフィは真っ赤になる。
「も、もう!!その話しは終わり!!皆待ってるだろうから帰るよ!」
「私としてはシェリーおねーちゃんに頑張って欲しいんだけど・・・うし!じゃあここはアタシが一肌脱ぎましょうか?」
「脱がなくていいから!!」
わいわいと騒ぐミユとセルフィ・・・
その後姿を、海は揺れながら笑って見つめている・・・
・・・クスクスクス・・・
時に荒々しく・・・
時に穏やかに・・・
いつも見つめている・・・
海鳴り果つる時 完
<半年遅れのあとがき>
はい!そういうわけで、ハゲシクお久しぶりのVガンマ〜です!!
皆さんのご声援にお答えして、やっと完結を迎えた「海鳴り果つる時」いかがでしたでしょうか?
「別に声援は送られてなかったと思うのだが・・・」
「脅しは掛けられましたけどね」
・・・そういうお前らは恭也に今井じゃないか・・・
「主人公なのに引き立て役だった恭也と」
「恭也君より早くから登場しながら名前がなかったミイラ男の今井で〜す♪」
そうだねえ、今井君!前編から登場しながら、今回の半ばでやっと自己紹介できたね♪おめでとう♪
「・・・自己紹介後すぐに吹っ飛ばされましたけどね・・・」
うむ♪吹っ飛ばされるのは男のロマンじゃ(何
「・・・ふっ飛ばしてやろうか?この腐れ作者」
(無視)はっはっは!しかし、今回もあとがきの仲間が野郎だとは・・・いったいどうしたことだ?俺はあとがきには可愛い(重要)
おんなのこを入れる主義だぞ!!
「半年も待たせるから、みんな飽きて帰っちゃったんじゃないか・・・」
・・・自業自得?
「かなり」
(バキューン!←グロック17でVガンマ〜が今井を撃った音)
「な、なんじゃこりゃ〜〜〜!!・・・バタ」
さて、そんな事はともかく・・・
「いきなり撃たないでください!!」
うっせえ!このレンズ付きフィルム級のオリジナル野郎キャラが!作者に楯突くのは24日早えんだよ!!
「微妙に近!!」
さて、そんなわけでしたが、いろいろと私が勝手に設定付けした点が幾つかありましたね。
「うむ。シェリーの能力とかニューヨークレスキューでの仕事とかだな」
そう。一応、サウンドステージ5を参考に考えました。ちなみにセルフィの言葉遣いなんかも参考に・・・
「おい・・・前編と微妙に一致して無い気がするぞ・・・」
ああ、心配するな!いま前編のほうも書き換えた(ぉ
「・・・まあ良いがな」
さて、あと一応フォロー的に用語集を乗せておきますね〜
「それは親切だな・・・」
まあ今回はバイクが出せなくて残念だ・・・
「・・・」
次回はバイク出すぞ〜〜!!
「バイクバカめ」
うっさい刀馬鹿!
というわけで、今回はこれくらいで〜〜
「さらばだ!」
「えぇ〜!?私の再登場は無しですか!?」
・・・多分・・・
「ゲフゥ」
〜〜〜海鳴り果つる時、用語&フォロー〜〜〜
<海鳴り伝説>
特にモトネタ無し。ほんとはごく普通に、災害に立ち向かうセルフィを書こうと思ってたのですが、それはとらハワールド(笑)
ちょっと、こういうテイストも入れてみようと思ったら、メインになってしまった感がありましたww
<リスティのバッジ>
基本的には警察官のバッチと同じモノです。これで「自分は警察官だ!」と示して混乱する客を静めました。
何故リスティが警察官のバッジを持ってるのか?と思われるでしょうが、リスティは警察関係にカナリ関係する仕事をしていると
思います(まあVガンマ〜が勝手にそう思ってるだけですが(汗))
そこで、リスティがその関係で警察官と同じ身分を持っていると設定して、SSを書きましたww
ちなみに作中では使いませんでしたが、リスティは拳銃も携帯しております。
<セルフィの能力>
耐圧耐熱フィールドも、要救助者転送のためのトランスポートもSS5で登場したセルフィの能力です。
しかし、作中に今井をかばうシーンがありますが実際、耐圧耐熱フィールドは他人に張る事が出来るのか分かりません、トランス
ポートも、作中で言うようにバックアップの援護が居るかも分かりませんが、あえてそういう設定にしてみました。
<ウォーターパルスガン>
海鳴消防の突入部隊が持っていた消火器具です。元ネタは、実際に消防が採用している消火器具(名前を忘れましたが・・・)が
元です。基本的に機構は同じモノです。これは阪神大震災の教訓から初期消火能力をあげるために採用されたモノで、実際には
消防のバイク部隊に配備されています(ホントはこのバイクを登場させたかった)。作中では連射も出来るようなパワーアップ
バージョンと考えて突入部隊に持たせて登場させました。結局、少女の操る炎には太刀打ちできませんでしたが、今後もセルフィSS
を書く際には登場させたい装備です。