――はじめに――

この作品は、「とらいあんぐるハート3 〜Sweet Songs Forever〜」に登場する、

高町桃子に焦点を当てて執筆されたものですが、はっきり言って文章の体を成しておりません。

小説のようなもの、という形式とは多分全然別のものと化しているであろう事を、あらかじめお断りしておきます。

それでは、つたない物語に暫し、お付き合い下さいませ。


















〜 あ る 夫 婦 の 「 対 話 」 〜
「あなた、久し振りね」 (ああ、そういえば、この前来たのはいつだったっけ、桃子?) 「そうねぇ、ひと月くらい前かしら……こんな事聞くのも何だけど、変わりないかしら?」 (ああ、こっちは変わりないよ。と言うより、変わりようも無いけどね) 「やっぱり、あなたにとって今は退屈なのかしらね?」 (うぅん、違う視点から眺めてみる、というのは確かに得難い経験だね。  でも、いつもそれを強いられるのはちょっと、なぁ。どちらかと言うと、自分で動いてみたくなる) 「うふふふ。あなたって、活動的過ぎるくらい活動的だし、仕方ないのかしら? とても恭也の父親とは思えないわ」 (それはひどいなぁ、恭也に〔剣の基礎の基礎〕を教えたのはこの俺だぞ?  ……ときに、その恭也なんだが、今恭也の周りにいる誰か、彼女にしたか?) 「あら、いつもは恭也の傍にいるんじゃなかったの?」 (おいおい、恭也の側にはいつでも行けるさ。でも、始終見ていたって面白くも何とも無い。  あいつは一体誰に似たのやら、まるで遊ぼうともしないじゃないか) 「あら、それじゃあなぁに? あなた、私と結婚する前は相当遊んでいたのかしら?」 (ちょ、ちょっと待った! も、桃子、もしかして俺がそんな遊び人にでも見える、とでも言うのか!?) 「さぁて、どうかしら?」 (か、勘弁してくれよ桃子ぉ、俺はそれ程の甲斐性は持ち合わせていないぞ?) 「本当かしら?」 (頼むから、疑問で返さないでくれ。これじゃあ、まるで俺が浮気者だよ) 「うふふふ、冗談よ。あなたがそんな人でない事くらい、桃子さんはちゃんと分かっているわ」 (はぁ、かなわないなぁ、桃子には。それにしても、本当に恭也のやつは朴念仁にも程がある。  折角好意を持たれてるんだから、誰か本命を決めたらどうなんだ、まったく) 「うふふふ、あのままでも恭也は結構もてるのよ。店でウェイターをした日には、お店の中が女の子で一杯になるもの」 (分かるよ、だからさ。別に選り取りみどりなんて事は言わないが、せめてなぁ) 「ふふふ、私は、その内なるようになる、そう思ってるわ」 (……へぇ?) 「恭也は確かに朴念仁だけど、自分がそうと決めたら、命を賭けても大事な娘を守る、そういう子だもの。  今は私達〔家族〕の事が、きっと大事なんだろうけど、ね」 (それはそれでいいんだが……やれやれ、これは育て方に問題があったかなぁ?) 「……そう思っているんだったら、早く還ってらっしゃいな、あなた」 (あ、いやぁ……それを言われると、だなぁ……) 「一度だけなら、閻魔様も仏様も見ないふりしてくれるわよ」 (それを言わんでくれよ……一度こうなってしまったら、もう〔元には戻れない〕んだからなぁ。  本当に〔人間の生命というのはひとつだけ〕なんだから) 「分かっているわよ、その位。だから、生命って大事なんじゃないの」 (ああ、全くその通りだよ。それでも、俺はやるだけの事はやった。その点は、悔いはないつもりだ。  もちろん、アルやティオレ、それにフィアッセには……桃子、お前にも、恭也にも美由希にも……済まないと思っている) 「……」 (だからってわけじゃないが、俺は今もみんなを見守っているつもりだよ。  まぁ、恭也があそこまで自分を追い詰めるとは、正直思ってもみなかったが……  ともあれ、前に進んでるんだから、良しとしなきゃ、な) 「……うん、そう……そうよね……」 (……ああ、そう言えば、いつの間にか、お前の〔家族〕は増えたよな) 「ええ、みんな〔自慢の子供達〕よ、あなた」 (なのはも、大きくなったよなぁ) 「そうねぇ、今家の中でなのはに逆らえる子はいないわ」 (ははっ、それは母親に似たんだな。俺が桃子に頭が上がらなかったのと一緒だ) 「何言ってるのよぉ、んもう」 (はははは……ああ、そろそろ時間じゃないのか? 桃子) 「え? あ、そうね。そろそろお店に戻らなきゃ」 (商売繁盛、何より何より) 「ええ、大好きな仕事だもの、まだまだ桃子さんは頑張るわよ!」 (それでこそ桃子だな。だけど、頑張るのもいいが、身体をいとえよ) 「うん、分かってるわ。ありがとう、あなた。心配してくれて」 (当然だろ……じゃあ、またな、桃子) 「また、ね。あなた……」 閉じていた瞳をそっと開く。 目の前には、ひとつの墓標がただ、そこに建っている。 彼女の、高町桃子の愛した、夫の眠る墓標。高町士郎の冥る場所。 立ち上がる。 立ち上がって、視線を移す。海鳴の市街地と、そして広い海が目に入る。 更に目を移すと、はるか遠くまで見えそうな、そんな気がする。 見上げると、青く、ただ青く空が広がり、所々でぽつん、ぽつん、と白い雲が自己を主張していた。 午後を過ぎて、傾きかけた陽光が、未だ柔らかく差している。 大きく背伸びをして、少し涙の滲んだまぶたをそっと、指先で拭う。 今日もまだまだ、お客さんがやって来る。 今は恭也がウェイターにヘルプで入っているから、店の中は女性客が多くなっている事だろう。 そろそろ戻って、皆の負担を軽くしてやらないと。 「さぁ、もうひと踏ん張り、桃子さんは、頑張るぞぉ!」 ――それは、日常の合間のささやかな〔対話〕……ささやかな―― 〜ある夫婦の「対話」〜 了

後記

いかがでしたでしょうか?
実は、この作品は同人誌以外で依頼を受けた、数少ない作品のひとつとなります。
そもそも発端は、桃子さんのファンだという知人のリクエストにありました。

「桃子さんのネタが欲しいです」

依頼を受けたのが2002年の秋頃でしたか、その時別口でイベント「とらパ」向けの原稿も
引き受けていた事から、年を越しますよと念を押して、了承を得た記憶があります。
しかも出来上がってみれば、何やらおかしな形になっていますね(苦笑)。
構想開始の段階で、実は使えたものがいくつかのセリフの断片しかなかったんですが、
その後合間々々に思いついたセリフを付け足していった、そのままの状態なんですね。
後半の文章は、殆んど「おまけ」な状態と化しております。
本来であれば、セリフの間に様々な描写を織り交ぜるわけなのですが、今回はそれを全然していません。
面倒くさいだけだろう、というツッコミだけは勘弁して頂けると幸いです。全く否定できませんので(大苦笑)。

さて、この辺りで筆を擱きたいと思います。
また、どこかでお会いする日まで。
ではでは。