夕刻 高町家台所。 仲良く夕食の支度をしている晶とレンの姿があった。 晶 「邪魔なんだよ、このカメ!」 レ ン「うっさいおサルやな、山に帰れ!」 晶 「なんだと、やるか!?」 レ ン「やったろやないか!?」 いつもどおり ……訂正、衝突寸前の晶とレンの姿があった。 晶 「いっくぞ〜〜〜〜〜!!」 レ ン「覚悟せぇや〜〜〜〜〜!!」 そんな中、 晶&レン「せーのっ!!」 声 「おにーちゃんなんか大っ嫌い!!!!!!!!」 晶 「うわっ!?」 レ ン「な、なんや!?」 高町家で最も稀にみる組み合わせによるケンカが勃発したのだった。兄妹ゲンカ ラウンド1 高町家食卓 恭 也 ((パクパクパク……)) なのは ((モグモグモグ……)) 美由希「……」 晶 「……」 レ ン「……」 フィアッセ「……」 桃 子「(……お、重いわね)」 高町家の食卓を非常に重い空気が取り巻いていた。 恭也&なのは ((ガタッ!)) 一 同「!!」 恭 也「…晶、おかわりを頼む」 なのは「レンちゃん、おかわり」 晶 「は、はい!」 レ ン「ちょ、ちょっと待っててな」 慌てて二人はご飯をよそって茶碗を渡す。 恭 也 ((パクパクパク……)) なのは ((モグモグモグ……)) 一 同「……」 恭也&なのは ((ガタッ!)) 一 同「!!」 恭 也「ご馳走様」 なのは「ごちそうさま」 席を立って部屋を出て行く二人。 それと同時に辺りの空気が軽くなる。 晶 「俺の胃が悲鳴を上げてる…」 レ ン「あんたもか。このままやとウチらが参ってまう」 並々ならぬプレッシャーから開放され、グテ〜っとテーブルに突っ伏す二人。 フィアッセはその二人の頭を苦笑しながらそっと撫でる。 フィアッセ「帰ってきたらアレだもん、びっくりしたよ。ねえ、二人に何があったの?」 レ ン「それがようわからんのです」 晶 「夕食を作ってる時に突然、なのちゃんの怒鳴り声が聞こえたと思ったらアレですし。 それに二人とも何も言ってくれないから何があったかも知らないんです」 桃 子「原因がわからないんじゃ、私達にはどうしようもないわね」 桃子は困ったわね、といった感じでそっとため息1つ。 美由希「でも、なんとかしないと……」 フィアッセ「そう言えば、あの二人がケンカしてるのって初めて見たかも」 晶 「あっ、確かに」 レ ン「ウチもそうです」 美由希「私も……かな?」 桃 子「あの二人がまともにぶつかる事はまず無いからね」 そう、普段から恭也となのははケンカすることが無いのだ。 年の差があることもそうだが、なんだかんだで恭也はなのはを可愛がるし、なのはは恭也を信頼しきっている感があるからである。 (故になのはの我侭を大抵において恭也は断れず、なのはは恭也の途方も無い大ウソに騙されるのだが。) フィアッセ「でも、そのせいで対処法がわからないのは問題だね」 美由希「晶とレンの場合は直ぐに発散しちゃって長引かないしね」 晶 「……誉め言葉……じゃないよな?」 レ ン「……やろうな」 一 同「う〜〜〜〜〜ん………………………」 揃って頭を抱え込む高町家一同。 桃 子「仕方ないわね、二人からそれとなく原因を聞き出してくれない?」 フィアッセ「わかった、わたしはなのはと話してみるね」 美由希「じゃあ、恭ちゃんからは今夜の鍛錬の時に聞き出してみるよ」 晶 「なのちゃんはともかく、師匠相手に大丈夫かな?」 美由希「大丈夫! あれで恭ちゃん結構単純だから。 聞き出すくらい問題無いよ」 レ ン「…美由希ちゃん、美由希ちゃん」 美由希「それに子供っぽいところもあるし。 簡単だよ♪」 声 「何が簡単なんだ?」 美由希「……」(汗) 美由希の背後には密かに殺気を立ち昇らせる剣鬼の姿。 声が落ち着いている分、プレッシャーも段違いである。 恭 也「ちょっと出かけてくる」 桃 子「はいはい、一応気をつけてね」 恭 也「わかってる。 美由希、今夜の鍛錬を楽しみにしてろよ」 踵を返し部屋を出て玄関へ向かう恭也。 そして、玄関の戸が閉まる音がするまで美由希は微動だにしなかった。 晶 「み、美由希ちゃん?」 美由希「……」 フィアッセ「美由希?」 美由希「………ど、どうしよう!?」(焦) 桃 子「取り敢えず怪我だけはしないように気をつけなさいね」 当然のことながらその日の深夜、普段の5割増で作った生傷に湯が染みて、 風呂場からご近所迷惑な絶叫を上げた美由希の姿があったことは言うまでもない。合掌。 翌朝、翠屋店内 桃 子「で、結局美由希は恭也に絞られて聞き出せず終いで、 なのはの方も……」 フィアッセ「ダメだった。ごめんね、桃子」 桃 子「仕方ないわよ。 恭也は当然として、なのはも結構頑固なところがあるからね」 誰に似たのかしら? などとボソリと呟く桃子。 唯一その呟きが聞こえたフィアッセはそっと苦笑する。 レ ン「でもなのちゃん、今回結構マジに怒ってはるみたいですね」 晶 「そうそう。いつもならちょっとは譲る師匠が一歩も退かないみたいですし」 フィアッセ「本当、困ったね……」 桃 子「ところで肝心の二人は?」 レ ン「おししょは那美さんのとこに行かはりました」 晶 「なのちゃんは忍さんと約束があったらしくて迎えに来たノエルさんの車で…」 桃 子「……そう言えば美由希は?」 レ ン「家の布団の中でうなされてます」 晶 「相当師匠にしごかれたらしいです」 で、その美由希の部屋では…… 美由希「うぅ、痛いよ〜、怖いよ〜。 許して恭ちゃん……あわわ〜」(泣) 夢の中でもしごかれているのか、寝言を言いながら震える美由希の姿があった。 月村邸、忍の部屋。 忍 「ねぇ、なのはちゃん。ひょっとしてご機嫌斜め?」 いつものようにゲーム対戦をしているのだが、あまりにも優勢な展開に疑念を持った忍の台詞。 なのはの技量を持ってすれば普段で互角、むしろ押し負けることが多いのだ。 これは目の前の勝負に集中していないと見るのも当然である。 なのは「……」 忍 「どうしたの? 将来のお姉ちゃんに話してみない?」 なのは「……実は……」 ……………………… 忍 「…なるほどね」 なのは「わたし、無理なこと言ってますか?」 コントローラーをもてあそびつつ話を聞いていた忍がジュースのグラスに手を伸ばす。 忍 「そんなことは無いと思うけど。 でも、これは高町くん次第だからね」 なのは「忍さんならどうですか?」 忍 「私? そうだな……」 忍は何かを思考しながら手のグラスのジュースを一口。 少し間をおいて残りの全部を飲み干す。 忍 「……わかんないな、やっぱり」 なのは「えっ?」 忍 「ずっとノエルと二人きりだったから、よくわかんない。 私がどっちの立場であってもね」 なのは「……」 忍 「でもね……」 なのは「…でも?」 忍 「何時も傍にいる人だからね。 不愉快にさせるならやめとかないと」 なのは「……」 忍 「それに、なんとなく高町君の心境はわかった気がするしね」 なのは「えっ?」 忍 「なんでもないよ。 それより、もう一度ちゃんと話した方が良いよ、ね?」 なのは「……そうします」 同時刻、さざなみ寮では…… 那 美「……で、ご相談というのは?」 恭 也「実は……」 ……………………… 那 美「……」 恭 也「…どう思いますか?」 神妙な面持ちの恭也。 対する那美は笑っていいものやら困っていいものやらという複雑な表情をしていた。 那 美「え〜っと、私からは何とも」 恭 也「?」 那 美「だって、私の場合……」 恭 也「ああ、そういえば……」 わずかに眉間にしわを寄せる恭也。 傍目には分かりにくいが、相当に困っている。 声 「ん? 高町くんじゃないか」 那 美「あっ、真雪さん」 恭 也「どうも」 たまたま通りがかったのだろう、さざなみ寮の最年長者が声をかける。 普段であれば2人を見るなりからかい始めるのだが、恭也の沈んだ雰囲気を察したのか真面目な表情をとる。 真 雪「どうした? なんかあったか?」 那 美「ええと、その……」 恭 也「折角ですから真雪さんにも聞いてもらいたいんですが…」 ……………………… 真 雪「……ふ〜ん」 恭 也「…どうですか?」 真 雪「あたし? そうだな…… もし知佳のやつがそんなこと言ったら……」 那 美「言ったら?」 真 雪「即刻、パロスペシャルをお見舞いしてやるな」 憤怒の形相をしながら両の手をワキワキさせる真雪。 が、それに対する2人は 那美&恭也「????」 全く分からないという表情をしていた。 真 雪「……ジェネレーションギャップってやつか。 はぁ……」 恭 也「…その、つまりは嫌だってことですよね?」 真 雪「そんなもんじゃない。 絶対許さない!」 那 美「あは、ははは……」(汗) 恭 也「やっぱりそうですよね」 真雪の答えに微妙に落胆したような反応。 それを見た真雪は弟でも諭しているような感覚になる。 真 雪「本当、不器用なんだから」 恭 也「?」 真 雪「なんでもない。 で、結局は当人の問題なんだよ。こいつとこいつの姉と同じ」 そう言いながら那美の頭をグリグリする真雪。 那 美「い、痛いです、真雪さん」(泣) 真 雪「お前はなんかうちの妹と同じで、妙に虐めたくなるんだよな」 那 美「酷いですよ〜」(泣) 真 雪「ま、これはともかくとして、だ。 もう一度ちゃんと話し合った方が良いぞ?」 恭 也「…そうですね。すみません、ご迷惑をお掛けしました」 何か吹っ切れたかのような表情をした恭也を見てニヤリと笑い、 真 雪「頑張れ、お兄ちゃん」 と言い放った。 夕刻、高町家門前。 フィアッセ「結局、解決方法思い浮かばなかったね」 桃 子「おかげで仕事は殆ど手につかなかったわ」 レ ン「どうしたらええんでしょう?」 晶 「収まるのを待つしかないのかな……」 車がやってきて門前に止まり、中からなのはと忍、ノエルが降りてくる。 なのは「ただいま」 忍 「こんにちは」 ノエル「……」((ペコッ)) 無言で挨拶をするノエル。 桃 子「おかえり。忍ちゃん、ありがとね」 忍 「いえ、ちょっと高町くんに用もありますし」 桃 子「恭也なら……」 フィアッセ「あっ、帰ってきたよ」 恭 也「…ただいま」 那 美「こんにちは」 久 遠「く〜ん」 桃 子「おかえり」 辺りに重い空気が流れる。 晶とレンは既に落ちつかずオロオロし、フィアッセは妙な心地悪さを感じながらなのはと恭也を見比べる。 桃子は静観することに決めたのか2人を見守る。 忍 「なのはちゃん……」 なのは「…うん。 …おにーちゃん?」 恭 也「…なんだ?」 なのは「……ごめんなさい。 わたしがわがまま言って怒らせて……」 恭 也「……気にするな。 その……俺も悪かった」 なのは「ごめんなさい」 恭 也「すまん」 二人して頭を下げる。 それを見ていた一同は、ほっと胸を撫で下ろす。 フィアッセ「仲直りしたみたいだね」 晶 「良かった〜」 レ ン「今晩も続いてたら食事が喉通らんトコやったわ〜」 桃 子「ほんと。……で、原因はなんだったの?」 忍 「……プッ」(笑) 那 美「くすっ」(微笑) 事情を知っている忍と那美は笑いを堪える。 恭 也「えっと……、その……、なんだ………」 なのは「わたしがおにーちゃんに無理を言ったの」 桃 子「?」 恭 也「……別に良いぞ」 なのは「えっ?」 恭 也「まあ、その……お前が好きなようにすれば良い」 なのは「でも……」 恭 也「……」 なのは「えっと……じゃあ。 ……恭…ちゃん」 高町家一同「えっ!!!!????」 なのはの一言に高町家の面々は目を丸くする。 那 美「あははっ!」(笑) 忍 「……もうダメ、耐えられない!」(笑) 堪えきれず笑ってしまう2人。 恭 也「……」 恭也は無言でなのはに歩み寄り…… なのは「あやや〜」 なのはの両の頬をムニュ〜と引っ張る。 恭 也「やっぱり止めろ」 なのは「ふぁ〜い」 こんなやり取りをしつつもなのはは笑顔、恭也も表情は無愛想ながら穏やかな目。 ケンカ再発の雰囲気は微塵もない。 恭也がなのはの頬から手を離して頭をぽんぽんと叩く。 恭 也「……家に入るぞ」 なのは「うんっ!」 晶 「……」 レ ン「……」 フィアッセ「……」 事情がイマイチ飲み込めない高町家の人々は呆然と二人を見送った。 桃 子「……結局なんだったの?」 忍 「実はなのはちゃんが美由希ちゃんみたいに高町くんのことを 『恭ちゃん』って呼びたかったらしいんです」 桃 子「それで?」 忍 「高町くんが相当嫌がったらしくて。 それでちょっとケンカしちゃったとか」 フィアッセ「恭也が怒っちゃったんだ」 那 美「恭也さん、怒ってはいないんですよ?」 レ ン「えっ?」 那 美「照れ臭かったそうです」 晶 「美由希ちゃんだったらともかく、なのちゃんだからかな?」 那 美「ええ、多分。で、今朝、私のところに相談に。 力になれませんでしたけど」 晶 「えっ、どうしてですか?」 那 美「私、姉のことを『薫ちゃん』って呼んでるもので……」 レ ン「そら、しゃ〜ないですね」 那 美「うちの寮生の真雪さんは妹に『真雪ちゃん』と呼ばれたら、許さないって言ってましたけど」 フィアッセ「人それぞれだもんね」 桃 子「ともかく、これで万事解決、めでたしめでたしね。 折角だから仲直り記念にパーティーでもやっちゃう?」 フィアッセ「そうだね。一緒にどう?」 忍 「是非!」 那 美「ご一緒させてください」 久 遠「く〜ん♪」 明るくなった一同は家の中へと入っていく。 晶 「……なんか忘れてる気がするんだけど」 レ ン「晶もか? ウチもやねんけど、なんやろ?」 ノエル「……そう言えば美由希さんの姿が見えないようですが?」 晶&レン「……。 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!」 その頃、美由希は…… 美由希「怖いよ、怖いよ〜」(泣) まだ夢の中でしごきに遭っているのだろう、滝のように涙を流しながら泣いていた。 兄には苛められ、家族からは完全に忘れ去られている高町姉に幸あれ!(笑) Fin
前回に続き完売したオフセ本より再編集したバージョン。 順番で行けばとらハ2が先ですが都合によりこっちを先行しました。 今回のUPにあたり、若干タイトルが変わってます。はい、ラウンド2があるということです。 構想のみで原文すらないですから発表時期は未定ということで。 コンセプトは、 ・高町家兄妹ネタ ・わりとほのぼのと といったところです。 最初に3をやった時に、兄を「恭ちゃん」と美由希が呼んでいたことが全ての始まり。 兄に『名前+ちゃん付け』とはいい度胸だな、と。 が、聞くところによると割とこれがまかり通る実兄妹が多いらしい。 んな馬鹿な、うちは絶対ありえん!! ちなみに言霊と実妹は7歳差。ちゃん付けで呼ぼうものならはたきます。 要は『恭也と美由希』より、『恭也となのは』に近いからそういう感覚なのか? と思ったわけです。 なら、なのはに「恭ちゃん」と呼ばせてみたらどうなるか!? と思い至ったわけで。 そうそう、言霊の中で美由希が自爆キャラに固定されたのはこれからですね。 後に続くとらハ3物は全部何かしら自爆してますから。(笑) 今回再編集にあたり、最初は編集しないで原文のままで良いかと思ったものの、 もう少し心情を表した方が良いかと思ったので追加。こんな感じになりました。 言霊が作るとらハ3ベースの文章には3つの大枠があります。 1.ヒロイン不定の物。(HP公開の『この世で一番大切なもの』はこれ。) 2.特定ヒロインを置いた物。(オフセ本『May blessing you!』収録の『プロジェクト×(ばつ) 〜探索者たち〜』とか。) 3.恭也主観で家族関係を重視した物です。(今回の『兄妹ゲンカ』、上記オフセ本収録『幸せの記憶』。) 発表時期未定ですが事前に言ってしまいます。 兄妹ゲンカ ラウンド2、タイトル未定作の以上2本で書きたいテーマを消化しますので3番目の大枠は終了です。 『兄妹ゲンカ ラウンド1』のテーマは『兄』でした。 『幸せの記憶』では前半が『幼馴染』、後半部は『息子』。 残りの2作の分は秘密と言うことで。 これで自分で自分を追い詰めるの完了。頑張れ、俺。(笑)
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