お馴染み『さざなみ寮』のリビングには延々と部屋を歩き回る槙原耕介の姿があった。
右へ左へと絶え間なく動き続ける姿に痺れを切らした面々が声をかける。
知 佳「少し落ちつきなよ、お兄ちゃん」
リスティ「放っておけば? 見てるのもそれなりには面白いし」
美 緒「それにしても遅いのだ。
どっかで事故ったりしてるのかも?」
耕 介「!?」
急激に顔が青ざめる耕介。
知 佳「こらっ、美緒ちゃん!」
声 「ただ〜いま〜♪」
みなみ「あっ、帰ってきたみたいですよ……って」
振り返り見る頃には耕介の姿は玄関へと消えていた。
知 佳「私たちも行こうか?」
リビングにいた一同は続いて玄関へと向かったのだった。
ゆうひ「耕介くん、ただいまや〜」
愛 「遅れてすみません耕介さん。道がちょっと混んでたもので」
真 雪「どうせ耕介の事だから、動物園のクマみたいに落ち付かずに
ウロウロしてたんじゃねぇのか?」
薫 「仁村さん、耕介さんに失礼ですよ」
知 佳「あはは、正解」
ゆうひ「心配性やな〜。
……耕介くん、はい」
そう言ってその手に抱えていたものを出迎えた耕介へとそっと渡す。
耕 介「……………」
渡されたものをじっと見つめたまま身動ぎ一つしない耕介。
みなみ「………耕介さん?」
真 雪「…おい、耕介?」
リスティ「安心したのと嬉しいのとが混ざってフリーズしてるよ」
愛 「あらあら…」
真 雪「誰かCtrl+Alt+Delしてやれ」
知 佳「パソコンじゃないんだから…」
固まったまま動かない耕介の腕の中には、スヤスヤと眠りを満喫している赤ん坊の姿があった。
Nameless Memories
さざなみ寮リビングから庭へと続く窓に腰掛ける二つの影。
ゆうひ「耕介くん、落ちついたか?」
眠る赤ん坊を腕の中に抱きながら、未だに意識が浮ついている耕介に優しげに声をかける。
耕 介「ああ、なんとか」
ゆうひ「これから毎日一緒なんやで? 大丈夫か?」
耕 介「大丈夫……多分」
確信と不安が入り混じったような表情をする。
ゆうひ「頼りにしてるからな。
……あっ、そういえばこの子の名前つけるときに何かあったって聞いたんやけど?」
耕 介「ああ、そんなこともあったな。
あれは確か……」
……………それは数日前のこと……………
ゆうひ出産のニュースにさざなみ寮で祝福の大騒ぎが一通り行われた後、
フッと思い出したかのように薫が口を開く。
薫 「耕介さん、そういえばお子さんの名前はどうされるんですか?」
耕 介「……あっ、忘れてた」
知 佳「お兄ちゃん……」
育児に必要な様々な物は何ヶ月も前の段階から準備しておきながら、
最も大切な赤ん坊につける名前を考えておくのを忘れているのにようやく気付いたのだった。
美 緒「あたしがつけたげるのだ。
むむむ……、『チビ』はどうだ?」
みなみ「ダメだよ美緒ちゃん、耕介さんの子供なんだから大きくなっちゃうよ」
美 緒「おおっ! それはまずいのだ!」
耕 介「それ以前に犬猫につけるような名前はやめてくれ」
項垂れながら呆れ果てたかのように呟く。
薫 「やはり、ご両親の名前を参考とされては?」
愛 「だったら『子ゆうひ』ちゃんなんてどうでしょう?」
真 雪「あははっ、そりゃ良いや。そうしろ耕介」
満面の笑みで言い放つ真雪。
耕 介「他人事だと思ってなんて名前つけるんですかっ!!」
先ほどとは一転して、今度は激昂して怒鳴る。実に忙しいことだ。
知 佳「お兄ちゃんとゆうひちゃんの子供だから……」
リスティ「『ゆうすけ』『こうひ』『こうゆう』『ひすけ』……」
耕 介「……適当な組み合わせを作るな。それに産まれたのは女の子だって」
小 虎「にゃにゃにゃにゃ〜♪」
耕 介「……気持ちは嬉しいが遠慮させてくれ」
…………………………
ゆうひ「あはは。小虎も一緒に考えてくれたんか。
けど、『子ゆうひ』はさすがのうちも思い付かんかったわ」
耕 介「思い付いて欲しく無いし」
ゆうひ「で?」
耕 介「確かその後は……」
…………………………
リビングに勢揃いし、真ん中のテーブルを囲むように着席している。
男が端っこに追いやられているのが、そこはかとなく哀れだ。
知 佳「それでは、『第1回 耕介&ゆうひの子供の名付会議』を始めま〜す」
愛 「議長は私、槙原愛が務めさせて頂きます」
耕 介「……『第1回』って、何回もするつもりなのか?」
真 雪「そりゃあんた達次第だよ。
主にお前だな」
耕 介「俺っすか!? 不服申立てをするなと?」
真 雪「違うって。
あんたが何回仕込むかだよ」
知 佳「そこっ!
フォローしきれない程ストレートな表現の上に
大した抑制力の無い発言はしない!!」
耕 介「……知佳、さり気無くもっと酷い事言ってる」
今の発言を聞いた耕介は、うずくまって指先で絨毯に『の』の字を書いている。
はっきり言っていい大人が、それもでかい図体をした男がすることでは無い。
美 緒「とっとと始めるのだ」
リスティ「どうせ収拾はつかないしね」
愛 「……えっと、まずは名前の候補を選出したいと思います」
真 雪「まず、『子ゆうひ』な!」
薫 「仁村さんッ!!」
…………………………
ゆうひ「……耕介くん、大変やったんやね」
耕 介「……もの凄く。
でな……」
…………………………
愛 「……では、リストアップされたこの327の候補の中から
ゆうひちゃんと耕介さんの子供さんの名前を決めたいと思います」
耕 介「……そんなにあるんですか?」
愛 「はい♪」
真 雪「岡本くん、あれを用意!」
指を鳴らして合図しながら言う真雪。
耕 介「『あれ』って?」
みなみ「これです!」
((ドンッ!!))
そう言ってテーブルに置かれたもの。それは……。
耕 介「……この箱は?」
美 緒「みんなで頑張ったのだ」
十六夜「私もお手伝い致しました」
リスティ「327枚も用意するのは大変だったよ」
耕 介「……ひょっとして」
リスティ「クジだよ」
耕 介「そんなしょうもない物を使うなッ!!」
真 雪「ったく、わがまま言う奴だな。
なら知佳、あれを準備しろ」
知 佳「……えっと、あれだよね。本気なの?」
真 雪「当たり前だ!」
耕 介「とてつもなく、嫌な予感がするんですが……」
…………………………
ゆうひ「……あれってなんや?」
耕 介「パーティー会場なんかで見るあれだ」
…………………………
耕 介「……って、これビンゴゲームに使うやつじゃないですか!!」
真 雪「そうだよ。出版社のパーティーで使ってたやつをガメて来た。
これならさっきのよりも見た目的に少し上等だろ?」
耕 介「内容的には変わってないし。
それに、褒められないいわく付きの物を使わないで下さいっ!!
……大体それって確か1〜99までしか数字が無いじゃないですか」
リスティ「大丈夫だよ。何故かは知らないけど327まであるから」
耕 介「な、何故!?」
真 雪「そんじゃま行ってみようか」
みなみ「それでは、スタート!!」
美 緒「にゃんがにゃんがにゃ〜♪」
耕 介「頭痛い………」
再び凹む耕介。
その背中には哀愁が漂っている。
みなみ「あっ、止まりました!」
愛 「それでは発表です!」
美 緒「ドキドキ♪」
十六夜「胸が踊りますね、薫」
薫 「十六夜。耕介さんの顔見たらそんなこと言ってられんよ」
知 佳「顔、真っ青だよ、お兄ちゃん」
耕 介「こんなやり方で変な名前に決まったら、ゆうひにも赤ん坊にも顔向けできん」
滝のように涙を流しながら吐露する男。
そんなものどうでもいいかのように決まった番号を確認する面々。
愛 「耕介さんとゆうひちゃんの子供さんの名前は……………
61番の花音ちゃんです!!」
真 雪「だぁ〜〜〜〜!!
『子ゆうひ』じゃねぇのかよ!!」
耕 介「あんた、しつこいぞ!!」
…………………………
ゆうひ「それって誰の考えた名前やったんや?」
耕 介「薫だったらしい」
ゆうひ「へ〜。薫ちゃんには感謝やな」
耕 介「これをみんなが気に入ってくれて良かったよ。
もう1回やってたら何になってた事か……」
ゆうひ「そっか。この子はみんなからめっちゃ愛されとるんやね。
そこまで本気になってくれるんやから」
耕 介「ああ。ちょっと……いや、かなり歪んだ愛情も混じってるけどな。
1番違いの候補が真雪さんの『子ゆうひEX』と
美緒の『デカ』だったんだから」
ゆうひ「そ、それは………」
真 雪「お〜い、耕介〜。さっさと飯作ってくれよ。
腹減っちまったい」
いつのまにやら日は傾き、あたりの色を夕日が赤く染め上げていた。
ゆうひ「あっ、うちもや。耕介くん、早う作ったってな♪」
耕 介「はいはい、今作りますよ」
立ち上がり台所へと向かおうとする男。
真 雪「なあ……」
耕 介「なんですか?」
真 雪「こいつ、今からでも『子ゆうひ』に改名させないか?」
耕 介「しつこい!!!!」
……………そして数年後……………
今日もさざなみ寮に耕介の声が響く。
耕 介「ごはん、できたぞ〜」
美 緒「耕介、量が多過ぎ」
耕 介「あ、そっか、もうみなみちゃんは……」
真 雪「惜しいヤツを亡くしたよな、南無南無……」
知 佳「お姉ちゃん、勝手にみなみちゃんを殺さない!!」
真 雪「じょ、冗談に決まってるだろうが」
数日前、アメリカでの試合に出るため寮を離れたばかりなのだ。
そもそも、丈夫で長持ちの『人間削岩機』ですから、滅多なことでは壊れません。(笑)
愛 「は〜い、花音ちゃん、ひなちゃん、裕羅ちゃん、真紀ちゃん、静ちゃん
みんなもご飯ですよ〜」
赤ん坊「ほぎゃ〜」
真 雪「あ、おい耕介、菜摘が泣いてるぞ」
知 佳「あ、わたしが見て来るから、お兄ちゃんはご飯お願いね」
耕 介「悪い、知佳」
子 供「ふぇ〜〜ん」
耕 介「こ、今度は暁か!?」
那 美「わたし見て来ます」
耕 介「ゴメン、よろしく」
……………1時間後……………
那 美「かなり余りましたねぇ」
知 佳「みなみちゃんが居なくなっただけでこんなに……」
リスティ「あの食欲だからね」
テーブルの上には、ざっと数人前の料理が手をつけられていない状態で並んでいる。
各自でがんばってはみたのだが、完食には至らなかったのだ。
真 雪「寮に居る人数的には誰かさんたちのお蔭で増えてるんだけどな」
耕 介「あは……あははははは…………」
真雪は『誰かさんたち』の片割れを見る。
そしてそれに反論も出来ず、ただ渇いた笑いしか出来ない耕介。
真 雪「お前、ゆうひがイギリス戻るときに『母親代わりはたくさんいるから』
って送り出したらしいな。
母親代わり1人に子供1人付ける気か!?
ゆうひが帰国するたびに1人増えるのか!?」
リスティ「真雪、冗談に聞こえない、それ……」
そう言って自分の手の中にいる赤ん坊を見る少女。
この場にいる全員が1人づつ子供の相手をしていることを考えればそれも当然であろう。
もちろん全員が『耕介&ゆうひ』の実子である。
なお、構成は、
長女:槙原花音(かのん:6歳)
次女:槙原ひな(4歳)
三女:槙原裕羅(ゆら:4歳)
長男:槙原真紀(まさき:4歳)
四女:槙原静(しずか:2歳)
五女:槙原暁(あき:1歳)
六女:槙原菜摘(なつみ:3ヶ月)
※次女と三女は双子、2人と長男は年子。
以上の通りである。
真 雪「大体だな、なんでこれだけ作っといて、誰一人として『子ゆうひ』って名前にならないんだぁ!?」
耕 介「……あんたホントにしつこいっすね……」
……………さらに数ヵ月後、イギリスのCSS(クリステラ・ソング・スクール)にて……………
ゆうひ「……せんせ〜、うちオペラ辞めるかもしれへんですわ〜」
ティオレ「一体どうしたの、ゆうひ?」
ゆうひ「……なんや、その……8人目、出来たかもしれへんのです♪」
嬉し恥ずかし、うちどないしよ〜♪といった様子のゆうひ。
仕事が出来なくなることは困るが、やはり子供が出来たことは嬉しいらしい。
アイリーン「ま、また!?」
ティオレ「いいわねぇ、夫婦仲が良くて」
フィアッセ「ママ、そういう問題なの?」
3者3様のリアクション。
もう7度目ということもあって驚くポイントがまちまちである。
アイリーン「ゆうひ、オペラやってるより産休の方が長いんじゃない?」
ゆうひ「そうなんよ。だからこの際、辞めようかなぁって……」
ティオレ「病院には行ったの?」
ゆうひ「いや、まだです。
ただ、今までの経験からして出来たんちゃうかなぁ……って」
ティオレ「あなたが言うんだからそうかもね。
とりあえず、明日病院に行って確認してらっしゃい」
ゆうひ「は〜い」
………………………
ティオレ「そういえば、あなたのところはどうなの?」
ゆうひが部屋を出た後フィアッセに話を振るティオレ。
その瞳はいたずらを思いついた子供のように輝いている。
フィアッセ「えっ!? な、なんのこと?」
ティオレ「恭也もこっちに呼べば良かったわね、離れてたら出来るものも出来ないから。
……あっ! 今から呼ぼうかしら? しばらく会ってないもの。
そしたら来年にも孫の顔が見れるわよね?」
実に楽しそうに満面の笑みを浮かべて言う。
それに対しフィアッセは、
フィアッセ「!!!!」
アイリーン「先生、それ、直球すぎ」
怒り3割、恥ずかしさ7割で顔を真っ赤にしてショート寸前だった。
……………翌日、海鳴のさざなみ寮……………
知 佳「はい、もしもし。さざなみ女子寮です。
あ、ゆうひちゃん?」
ゆうひ「ハロー、知佳ちゃん」
知 佳「お兄ちゃんに用事?」
ゆうひ「うん。代わってもらえへんかな?」
ちょうど夕食をとっていたため、食卓に全員が揃っていた。
耕 介「ゆうひから?」
真 雪「『また妊娠しました』とかだったりしてな」
リスティ「あり得るかもね」
耕 介「まさか」
そんなことあるわけ無いといった風に笑いながら言う3人。
愛 「……あの、心当たりとかは?」
耕 介「…………………………ありまくりです」
一 同「………………………………」
なんとなく気まずい空気が立ち込めた。
真 雪「まったく、飽きもせずにようヤるよ」
知 佳「お姉ちゃん!!
ほら、ゆうひちゃん国際電話なんだから早く」
耕 介「はいはい」
………………………
耕 介「ゆうひ?」
ゆうひ「ニーハォ、耕介ちゃん、元気してたぁ〜?」
管理人就任1年目の耕介が、前管理人の神奈から電話を受けた時に言われた台詞である。
耕 介「……その場に居なかったお前が何故それを知っている?」
ゆうひ「乙女のひ・み・つ♪」
耕 介「7人の子持ちがか?」
ゆうひ「気持ちの問題や」
耕 介「…………どころで、どうした?」
ゆうひ「あんな、実はうちオペラ辞めようと思ってな」
耕 介「オペラを辞める!?」
思いがけない言葉に声を上げる耕介。
ふと見ると何事かとリビングから顔を覗かせている寮生の面々。
コホンとひとつ咳払いして落ち着いてから問い返す。
耕 介「いきなりだな。なんで?」
ゆうひ「うち、今までに産休多かったやろ?
だったら、もうオペラ辞めて子育てしようかなって」
耕 介「子育てって……、こっちには母親代わりは充分いるぞ?
チクチクと俺に小言を言いつつも、みんなでちゃんと面倒見てくれてるし」
ゆうひ「でも、産むのはうちやし」
耕 介「……ひょっとして」
ゆうひ「うん、さっき病院行って確認したから間違いないわ」
耕 介「そうか……」
ゆうひ「あっ、でも歌うことは辞めんよ。
うちは根っからの歌うたいやしな♪」
耕 介「ちょっと安心した。
……気を付けて帰ってこいよ」
ゆうひ「うん。ほなな」
………………………
那 美「ほ、本当に8人目……」
愛 「あらあら」
真 雪「耕介が生産活動、大好きだからな」
知 佳「お姉ちゃん、フォローしても意味が無い
至極当然の事を言わないッ!!」
耕 介「シクシク…………」
うずくまって床に『の』の字を書き始める。
床には涙で小さな池が出来あがっていた。
リスティ「知佳、その言い方はさすがの耕介も傷つくと思う」
真 雪「次こそ『子ゆうひ』になる事を祈ってるからな」
耕 介「……いい加減諦めてくださいよ」
リスティ「でも、今回もアレでやるんでしょ?」
真 雪「当然だ」
耕 介「シクシク…………」
…………そして数ヶ月。無事に槙原夫妻の第8子(男)が誕生した。んで…………
真 雪「さあ、今回の名前決めだ!
那美、ちゃんと頼んでおいただろうな?」
缶ビール片手にかなりのハイテンション。
こうなると誰にも止められない。
まあ、最早誰一人として止めようともしないのだが。
那 美「はい、ノリノリで作ってくれましたよ。
月村忍作、『デジタルビンゴマシーンU(ツヴァイ)』です」
そう言って箱型の機械を置く。どうやらテレビに接続して使用できるらしい。
ゆうひ「『U』? 『U』ってことは、『T』があるん?」
那 美「はい、『デジタルビンゴマシーンT(アインス)』は
忍さんの叔母さんの知り合いにプレゼントしたそうですよ」
知 佳「……というか、相川くんのところだよね」
那 美「あと『デジタルビンゴマシーンV(ドライ)』は高町さん家にあるそうです」
耕 介「……暇だね、あの子も」
ぶつくさ言いながらもセッティングをする。
無駄な抵抗はしないようだ。
ゆうひ「ん〜、高町さん家か……あそこが使うんにはもうちょっとかかりそうやな」
う ち
那 美「あの〜、こんな使用目的はさざなみ寮だけだと思うんですが」
………………………
テレビの前に勢ぞろいした一同。
ある者は胸躍らせ、ある者は不安で潰されそうになりつつ、ある者は片目の入っていないダルマを持って構え、
またある者は『勝訴』と書かれた紙を準備して開始を待っている。
……なにかが激しく間違っているが気にしてはいけない。
愛 「それじゃあ、いいですか? いきますよ〜?」
虎次郎「…ニャ」((ポチッとな♪))
一 同「ああっ!!」
慌てふためく一同を無視してテレビの画面を数字が踊る。
停止した時に画面に残った番号が今回の名前を決定する。
真 雪「子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ、
子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ、子ゆうひ!」
鬼気迫る勢いで念じる真雪。
耕 介「それ以外、それ以外、それ以外、それ以外、それ以外、それ以外、
それ以外、それ以外、それ以外、それ以外、それ以外、それ以外!」
それに勝るとも劣らない迫力で祈る耕介。
ゆうひ「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ!」
……それは違うって。(汗)
((ピッ!))
知 佳「あっ!」
画面に番号が固定される。その番号は……
愛 「今回は99番!
名前は………『充(みつる)』ちゃんです!」
耕 介「ふぅ、今度もまともな名前で良かった……」
ゆうひ「ほんまやね」
しっかりとボケをかましていた人間のセリフとは思えないが、やはり気にしてはいけない。
真 雪「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
なんで98番じゃないんだ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
寮内に響き渡る絶叫を上げ、そのまま床へと崩れ落ちる。
よっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぽど、悔しかったのだろう。
リスティ「ぼくの勝ちだね」
美 緒「あ〜あ、今度こそ勝つと思ったのに……。ハイ、1000円」
耕 介「人の子供で賭けをするなッ!」
知 佳「そういえば、小学校の頃に『自分の名前の由来を聞いて来る』っていう課題がなかった?」
那 美「あ。ありましたねぇ、そういうの」
耕 介「…………どう説明しようか」
美 緒「そんなもん、そのままでいいんじゃない?」
耕 介「いいの……か?」
この事を知ったとき、子供がグレないかちょっぴり心配になった耕介であった。
真 雪「8回目だぞ、8回目!
なんで毎回1番差なんだよ!?」
いつの間にやら立ち直ったらしい。
が、目は血走ったままである。
耕 介「あんたは『諦める』と言う言葉を知らんのかっ!!」
真 雪「知らん!!」
即答である。
美 緒「さすが何度留年しても最終的には大学卒業しただけあって、言うことに重みがあるね」
真 雪「こらネコ! てめぇ、思いっきり馬鹿にしてるだろ!?」
リビングで壮絶なバトルが勃発しようとしていた。
リスティ「なんだかねぇ……。
さて、おチビちゃん達の相手でもしてくるか」
そう言って幼い子供たちのいる子ども部屋へと向かおうとリビングを出ようとしたそのとき。
ゆうひ「リスティ、リスティ……」
リスティ「ん?」
ゆうひ「おおきにな」
リスティ「……なんの事?」
ゆうひ「ん……。なんとなく言いたかっただけ」
リスティ「……そう」
余談ではあるが、
毎回、誰にも気付かれずに影で彼女が『耕介&ゆうひJr's』のために
サポート
能力を使ってインチキをしていたのはここだけの秘密である。
Fin
思った以上に直しに時間がかかりました。
時期的に自分の一番好みに合う文章形態を模索していたので、全体を実に3度も修正作業しました。
所々その痕跡がありますが「ああ、迷走したんだなぁ」と笑ってやって下さい。
ちなみにいまだ最適化はなされていないような状態。
本編の内容について。
とらハ3に直接繋がる構成ではないので、2でゆうひエンドのアフターストーリーという位置づけです。
名前だけではあるものの、オリキャラの多いこと。頑張りすぎだ、耕介&ゆうひ。(爆)
名前については分かる人は無条件に分かるでしょうからあえて言うまい。
書き手の話ですが、書いた当時からドタバタ感を出そうとして会話分の量が異様に多くなってしまい、
「ああ、映像有りきだな」と思っていました。
やっぱり会話だけで進めるには情報量に問題あるんだよなぁ。(苦笑)
あと最初はこっちは原案協力だけのはずだったのに書き手のヒロが丸投げしちゃったから
こっちが書き手で向こうが協力という形になったという経緯が。(笑)