【 英雄の栄光 】 ――― セリス ―――
聖戦士バルドの血を引きし英雄・シグルドを父に。
聖者ヘイムの血を引きし光の皇女・ディアドラを母に。
この二人の血を引きし英雄の息子として生まれ、暴虐の歴史を塗り替えんと、
みこ
教育されし光の皇子。
正義は我にあり。
帝國の圧制は国民を苦しめる以外の何物でも無い。
為ればこそ。
我が絶とう。
ロンド
人々の、苦しみの輪廻。
ユリウス
その元凶を。
ロプトウス
暗黒神の化身・ユリウスを。
この手で。
【 月の瞬きに気づいたとき 】 ――― ユリア ―――
周りに目をやることが出来なかった。
おと
少しでも物音がするたびに、震え、怯えていた。
なにも耳にしたくなかった。目に入れたくなかった。
だから暗闇の中、独り、うずくまって、立ち止まっているしかなかった。
「大丈夫だよ」
「大丈夫だから」
ジルフェ
暖かな風精は言うけれど。
風精の導く先になにがあるのか。
私はなにもわからず、一歩を踏み出すことが出来ないでいた。
そんな私の前に、差し込んできたのは一筋の月の光。
暖かくはないけれど、とても柔らかくて、優しくて、
思わず俯いていた顔を上げてしまった。
全てを許容をするような包容力で迎え入れてくれる、満面の月。
手を引くでもなく。後押ししてくれるわけでもない。
けど。
「こっちにおいで」
目の前に照らし出される道。
このままここにいても何も変わらない。
自分から変わろうと思わなければ、なにも変えられない。
私は、月の光の示す方へ、ゆっくりと、歩き出す決心をした。
その先になにがあろうとも。
それは自分が選んだ道。
良いことも、悪いことも、全てひっくるめて、自分が選んだ道。
だから
全てを見届けよう。
それがたとえ、血を分かった兄を殺めることになろうとも。
【 羨望[せんぼう]の光 】 ――― ユリウス ―――
なぜ僕は生まれてきたのだろう・・・・・・。
けしん バースデイ
ロプトウスの生贄として、この世に生を受けた7歳の誕生日。
マンフロイの差し出した黒い書物を受け取ってしまったが故に、
ロプトウス
この血が、この肉体が、暗黒神として目覚めてしまった。
ココロ
残ったのはほんのわずかな、幼い精神。
ちから からだ
ロプトウスの強大な支配力の前に屈する他無く、徐々に浸食されていくこの精神。
けれども必死で抗いながら、そのときが来るのを待っている。
ロプトウスが、僕が、消滅するそのときを。
ユリア
妹 に滅ぼされる、結末を。
ごめん。
ごめんね、ユリア。
そんな重たい十字架を背負わせてしまうことになって。
『兄殺し』
ナーガの化身
けれども、もし僕が光の末裔だったら。
ロプトウスの化身
もしユリアが 闇の末裔 だったら。
あ の 子
僕は、ユリアを手にかけることが出来るのだろうか。
この手に・・・・・・。
ロプトウス
そう思えば、僕が闇の末裔で良かったと心から思える。
自らの手で、君を滅ぼさなくて済むのだから・・・・・・。
おしまい