| シ ア ワ セ の か け ら |
Fire Emblem -聖戦の系譜- | A PIECE OF PEACE |
ぱたん、とアレスの部屋の扉を閉めると、ティニーは無性に一人になりたくなり、階段の踊り場にある出窓から外を見やった。
一階の渡り廊下を、パティやラクチェたちが騒ぎながら通り過ぎる。
わたしもあの中に混ざれたら・・・。
そんな想いがティニーの頭の中を横切った。
しかし、自分は例え一時的だとはいっても、味方に対して攻撃魔法を繰り出してしまった身。
「あのときは仕方なかったんだから」
「育ての親の命令じゃ、聞かないわけにもいかないだろ? 例えそれが間違っていると思っていてもさ」
解放軍の仲間たちは、口々にそう励ましてくれるけど、やはりどうしてもティニーには割り切ることは出来なかった。
自分が傷つけてしまった、仲間たちへの贖罪。
おかしいと解っていながら、伯父に対して反論出来ず、出陣することになってしまった自分の不甲斐無さ。
それを考えると、どうしても、輪の中に入っていくことは出来ないのだ。
マナやラクチェが気兼ねなく誘ってくれたりはするが、
「ごめんなさい・・・」
と言って逃げ出してしまう。こんな自分じゃ駄目だ、と思いながらも、うまく接することが出来ないでいる。
階段を下り、踊り場にある出窓からぼんやりと外を眺め、ため息を吐いていると、不意に背後からぽん、と頭を叩かれた。
びっくりして振り返ると、そこには世界で唯一無二の兄・アーサーが居た。いつもの優しい笑顔で、声を掛けてくる。
「どうした? ため息なんて吐いて」
この兄、ほんの数日前に再会したばかりなのに、ちっともそんな気配を感じさせずティニーを『妹』だと信じて疑わず、
ざっくばらんに声をかけてくる、ティニーにとって初めての、『血縁の』お兄様だった。
母・ティルテュの話から、アーサーという兄が居る、ということは聞かされていたが、実際目の当たりにすると、
どう接したら良いのかわからないのが実情である。
「えぇと・・・みなさんとどう接したら良いかわからなくて・・・」
ティニーはありのままを、アーサーに伝えた。するとぽんぽん、と頭を軽く叩かれ、アーサーはティニーを抱き寄せて、言った。
「大丈夫。ここの連中は、みんな、そんなこと気にしてないよ。それに・・・見ろよ、あそこ」
と。城の中庭で追いかけっこをしている(正確にはラクチェがヨハンに追いかけ回されているだけなのだが)イザークの民を指して言った。
「あんな感じだから、あまり他のことにかまけてる暇、無いんじゃないかぁ?」
アーサーは飽きれたような、半ば感心したような表情を見せ、ティニーに苦笑いを向けた。つられて苦笑するティニー。
「・・・そうですね。楽しそう」
にこやかで愛らしい妹を腕の中に仕舞い込み、アーサーはぎゅっと抱きしめた。
「うん、良かった」
アーサーが小声で一人ごちると、それを耳にしたティニーは率直に疑問を口にした。
「なにがですか?」
アーサーは少し迷いながらも、妹の問い掛けに真摯に対応した。
「うん。ティニー、ここずっと元気無かっただろ。だから、気になってて・・・さ」
自分では極力明るく振舞ってきたつもりだったので、ティニーは少なからずショックを受けた。
ここには自分を自分を解ってくれる人が居る。解ろうとしてくれる人が居る。
常に自分を気にかけてくれる人がいる
「・・・・・・ありがとう、兄様」
ティニーの心からの言葉だった。アーサーの目をじっと見つめ、頬をピンク色に染め上げて言う。
「ありがとう! お兄様!!」
長年探し続け、ようやく見つけた妹の、予想以上の可愛らしさに、アーサーは若干戸惑いながらも、いい子いい子と頭を撫でる。
探していたモノの大きさ。一緒に居られなかった間に抱え込んだ様々なトラウマ。
これからはずっと一緒に、どんな困難でも乗り越えて行こうと、アーサーは誓わずには居られなかった。
おしまい
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Fire Emblem -聖戦の系譜- | A PIECE OF PEACE | 〜 Side Story 〜 |
「・・・ったく。なによ、あのアーサーの態度! 普通、妹を抱き寄せたりするわけ!?」
たまたま通りかかった階段の踊り場でティニーが沈んだ顔をしているのを見て、声を掛けようとして
アーサーに一歩先を越されたフィーは、事の始終を目撃していた。
アーサーの妹が解放軍に参戦したのは、先の戦いの終わりに皆の間に広まっていた。妹(ティニー)の話はアーサーから
散々聞かされていたので、再会できたアーサーの喜びは十分わかる。わかるが・・・
あの戦友(アーサー)の浮かれっぷり。シスコンっぷりたるや。
「なんかムカつく・・・・・・」
誰が居るわけでもないのに、フィーはぼそっと呟いてあたりを見回した。胸が、ズキンとした。
その響きの正体を無理矢理飲み込むために、フィーは頭の中を他のことにシフトさせようとした。しかし・・・。
「いもうと、かぁ・・・・・・」
壁に寄り掛かり、遠くを見つめる。その瞳の中には、レヴィン(父親)を探すと言って故郷(くに)を飛び出していった
セティ(兄)の姿が映っていた。フュリー(母親)を亡くしてから、家族がばらばらになってしまった。
シレジア(くに)もほったらかしだ。これではいくら民に慕われているとはいえ、国主として、王族として示しがつかない。
・・・もっとも、現在(いま)のシレジアはグランベルの属国となってしまい、フィーたち王族も、国民にかくまわれて
村に暮らしていたわけだが。
「どこに居るのよ・・・? お兄ちゃん」
一人、暗い廊下の片隅で、居場所の知れぬ兄に想いを馳せた。
おしまい